MITSUI FUDOSAN

組織変革をうながすクレドデザインと導入プロジェクト

三井不動産が手がける法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」では、仕事に最適な場所を提供するだけでなく、利用者とともに新しい働き方を一緒につくっていくためにリブランディングを実施。それに伴い、自らの存在意義を見直し、パーパスを言語化しました。BIOTOPEでは三井不動産と、運営を行う三井不動産ビルマネジメントのワークスタイリング事業にかかわるメンバーとともに、パーパスに沿ったクレド(行動指針)を作成。日々の業務において行動変容のきっかけになるよう、その後の導入施策などの支援もしました。

Point

組織の中に起こしたい変化の循環を構造化し、行動指針に落とし込む

新しい行動指針の裏にある意義をストーリー化し、行動を頭だけでなく身体で感じる場を設計

パーパス経営の組織設計

2社合同ワークショップ

意義の浸透

行動指針

課題

ワークスタイリングのパーパスを部内でつくったものの、そのために何をすべきかの指針がなく変わるきっかけがつかめずにいた。また運営には別会社もかかわっているため、組織の枠組みを超えて共通の価値観を浸透させる必要があった。

BIOTOPEがしたこと

2社合同のワークショップを通じてともに働く際に拠り所となる信条/行動指針(クレド)を作成。その後なぜそれが必要なのかをストーリー化し、ワークスタイリングにかかわる全メンバーにクレドを浸透させるための導入を支援した。

結果

パーパスやクレドで定めた言葉が社員同志のコミュニケーションのなかで自発的に出るようになった。パーパスにつながるストーリーがあることで組織の変革に対する理解が深まり、日々の業務のなかで判断を下すときの拠り所になった。

岡村英司
Eiji Okamura

三井不動産株式会社 ビルディング本部 ワークスタイル推進部
ワークスタイリンググループ グループ長
2001年に三井不動産に入社し、オフィス営業を経て、三井デザインテック㈱ワークスタイル戦略室にてオフィスを活用した働き方改革のコンサルティング業務に従事し、これまでに刷新したオフィスは約30社5万坪。22年4月より現職。人的資本経営・Well-beingをテーマに、日本企業の働き方を変えたいという想いで、三井不動産のシェアオフィス「WORKSTYLING」の事業戦略を担当。

浜田 桂
Kei Hamada

三井不動産株式会社 ビルディング本部 ワークスタイル推進部
ワークスタイリンググループ サービス企画グループ 主事
大手広告代理店でメディア新規事業、人事企画などを経験し、2021年10月に三井不動産に入社。ワークスタイリングの存在意義を事業全体で考えるワークショップを実施し、パーパス・クレドのデザインを推進。その後、事業戦略、リブランディングに携わる。現在は、ひとりでも多くの人に幸せな働き方のきっかけを提供したいという想いから、新しい「WORKSTYLING」ブランドにおけるサービスデザインを担当。

自らの存在意義を問い直してパーパスを策定

 

2017年に三井不動産の法人向けシェアオフィス事業として開業した「ワークスタイリング」は、現在、契約企業が約1,000社、全国に約150拠点を展開し、会員数は約26万人に上ります。緊急事態宣言によってリモートワークが急速に進んだことで、ここ数年はとにかく拠点を増やすことが急務でしたが、コロナ禍を経たいま、いつでもどこでも働けるのはもはや当たり前のようになっています。そこで2022年3月に、ワークスタイリング事業に関わるメンバー全員で、この事業の存在意義を見直すためにワークショップを実施。そのとき、「ワークスタイリングはなんのためにあるのか」という問いに対して、グループごとに「バリューグラフ」に取り組んでもらったのですが、「幸せのため」という声が最上位に上がりました。その後、組織として目指す方向を明確にするためにパーパスをつくったほうがいいという意見があって言語化に着手。最終的に、“すべてのワーカーに「幸せ」な働き方を。”というパーパスで、新しいワークスタイリングをつくろうということになりました(浜田)。

 

パーパスだけでは行動が変わらないジレンマ

みんなから出てきたワードを言語化したパーパスなので、その内容に異論はないものの、メンバーのなかにはテーマが大き過ぎて、具体的に何をすればいいのかわからないという空気が漂っていました。すべてのワーカーに「幸せ」な働き方を提供するためには、“場”の提供だけでなく、これまでしてこなかった幸せを感じる“機会”の提供を行い、シェアオフィスの枠を超えて新しい働き方を一緒につくっていく存在にならなければなりません。ただ、そのためには社員一人ひとりが日々の業務において行動を変えていく必要がある。パーパスを策定しただけでは、実現は難しいという課題がありました(岡村)。

パーパスで行動が変わらないなら、クレド(行動指針)もつくらないといけないと考えました。佐宗さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)を読んで感銘を受けた身としては、これはBIOTOPEにお願いするしかないと思っていたところ、偶然、佐宗さんとつながりのある人が周りにいたことも依頼のきっかけでした(浜田)。

 

意識を同じくするために必要だった第三者の存在

BIOTOPEからは2022年7月末に提案書をいただき、翌月の打ち合わせで過去の事例などを見ながら具体的な内容を詰めました。そこで8月から10月にかけて「価値/行動モデルの可視化・言語化」のワークショップを行い、クレドを作成し、それ以降、全メンバーに向けた「クレドの自分ごと化・浸透」の取り組みを実施することを決めました(浜田)。

ワークスタイリングは三井不動産だけで成り立っているわけではなく、現場を請け負っている三井不動産ビルマネジメントの存在が不可欠です。そのため、クレドは2社合同でお互いが納得できるものをつくることが重要でした。そこで、両社から約30名の有志を募り、「クレド デザインプロジェクト」を開始することにしたのですが、会社や立場が違うと考えや価値観も違います。その垣根を超えてひとつのものを一緒に見つけようというときに、第三者として併走してくれるBIOTOPEがいるのはとても心強く感じました(岡村)。

 

自分たちだけではできなかった価値観の可視化

フェーズ1のワークショップは全4回。現在の組織の価値観や強み・行動を明確にするセッションと、パーパスが実現された未来を考えるセッション、現在と未来のギャップを踏まえて具体的な行動を定義するセッション、それを言語化するセッションを行いました。特に印象深かったのは、1回目の「現在のDNA(価値・行動)モデル」を図にするところ。あれだけの意見をどうまとめるのかと思って見ていたら、「それはこういうことですよね」と可視化してくれる。ノウハウがない自分たちだけではできなかったでしょうね(岡村)。

デザイン思考を学んでいるひとりとして勉強になったのが、具体と抽象の抽象度のコントロールのしかた。例えば「この空欄に何を入れるか」というときに、抽象的過ぎても伝わらないし、あまりに具体的でもダメでそのバランスがとても難しい。それを参加者全員が共有できるかたちで価値観をまとめられるのは、本当にすごいスキルだと思いました(浜田)。

 

なぜ、このクレドがいま必要なのかを探索

3回目のワークショップで行った行動が変えられない理由や、その背後にあるしくみを理解するところも、今回のクレドづくりにおける大事なプロセスでした。ここで議論したワークスタイリングが起こすべき好循環と、問題が生じている原因を図にした「好循環と悪循環のシステムマップ」と、これまでのワークショップのアウトプットも参考にしながら、その後、言葉に落とし込んでいきました。ここでは日々の業務のなかで使える言葉になっているかを重点的に検討。また、今回はクレドをつくって終わりではなく、なぜこのクレドなのか、なぜいまなのか、存在意義であるパーパスとどうつながっているのか、といった文脈づくりを重視したのもポイントです。こうしたストーリーがあると社内外にワークスタイリングの世界観を伝えるときに、相手の納得感が全然違います。最後に、企画・運営にかかわるメンバーに、今回のワークショップを通じてできあがったクレドの表現に関するアンケートを実施し、寄せられた意見をもとに、言葉の精度を高めていきました(浜田)。

 

クレド導入を前に組織変革の必然性を議論

年明けの2023年1月には、現場で働くスタッフ(クルー)向けに原版をアレンジしたクレドを作成。準備が整ったところで、フェーズ2のクレド導入に向けたプログラムを実施しました。対象となるのは、ワークスタイリングにかかわる三井不動産と三井不動産ビルマネジメントの全社員約70名。そのため、午前と午後の4チームに分かれて同じ内容の半日ワークショップを2日間、計4回行ったのですが、クレドの浸透と同時に業務改善のための別プロジェクトも進めていたため、2月末に実施したワークショップではまずはクレドのことにはあまり触れず、なぜ組織が変わらなければいけないのか、という入口のところを中心に議論しました。印象に残っているのは、終了後にザワついていたというか、変革に対して防御意識が働いていたところ。予想していたとはいえ、これまで“なぜ?”という部分に無関心だった人たちにも伝わったんでしょうね。でも、いつか通る道であることは間違いないし、組織状態を把握する意味でも、有意義な時間だったと思います(岡村)。

 

相反するものを同時に導入する挑戦

3月末に実施したワークショップでは試行錯誤と学びを続ける組織に変わるために、なぜクレドが必要なのかということを伝え、全員が自分ごと化できるように、明日から取り組める自分なりのクレドをみんなでつくりました。大変だったのは組織変更をしてそれぞれがパーパスに向けた取り組みのどの役割を担っていくかの範囲を明確にする一方で、クレドでは前提の箱から“飛び出して”やったことのないことにチャレンジしようと伝えなければいけなかったこと。相反することを一気に、しかも会社をまたいで実行していく難しさがありました(岡村)。

それでも業務改善に関しては、パーパスがあったから説明できた側面も大きいです。一人ひとりの役割が明確でなかったら学ぶこともできないし、やりがいも感じられません。でも、それだけじゃ幸せな働き方につながらないですよね。だから、ただ役割分担するのではなく、「こういう役割分担の仕方になるんです」という伝え方はパーパスにつながるストーリーがなければ説得力がなかったと思います。結局は裏表の関係で、パーパス、クレドを目指していくなかで業務改善は当然あるし、KPIなどの具体的な数値がないと、かかわっているメンバーは何を目標にしたらいいのかわからない。このふたつを同時に伝えるのは稀なケースかもしれませんが、どちらも組織運営のなかで絶対に求められることだと思いましたね(浜田)。

 

すべてはパーパスにつながるストーリー

今回のプロジェクトで痛感したのはストーリーの大切さ。それがあるかないかで伝わり方がまるで違います。それこそ、ワークスタイリングのウェブサイトやパンフレットのキービジュアルの客船は、新しい働き方をつくるために大海を航海するように利用者に伴走していくという象徴だし、「幸せ」を探しに進み続けるといったボディコピーや、幸せの働き方のサイクルも、すべてパーパスにつながるストーリーになっています。これから始める新しいサービスもそう。そのおかげでメンバーもストーリーを考えるクセがついたし、伝えるときに「なぜ?」と聞かれれば、「パーパスがこうだから」という土台ができた。ストーリーのゴールがパーパスなので、組織を変えるとか、リブランディングといったタイミングでは、圧倒的にやりやすくなりましたよね。パーパスも、クレドもあるだけではダメで、例えば新しい施策やサービスを行うときも、そのストーリーに立ち戻って検証できることが大事。そういう意味でも、何かを判断するときの拠り所になっています(浜田)。

 

ワークスタイリングのパンフレットでは、すべてがパーパスにつながる世界観を表現。

タネは残ったか?

メンバー同士の日常会話や打ち合わせのなかで、「それって本当に幸せな働き方のきっかけになるんですか?」といった発言が普通に飛び出すようになりました。もちろんサービスに関しても、“幸せな働き方”を基準に考えるクセがついて、一人ひとりが変わろうとしている兆しが見られます。パーパスがあって、さらにクレドがあることによって、失敗しないようにやるのではなく、一歩前に進むための力をもらえているような気がします(浜田)。
予測した以上に、クレドの浸透が速く進んでいる手応えを感じています。今後はこういうカルチャーをワークスタイリンググループだけでなく、三井不動産全体に広めていきたいですね。結果が出るのはまだ先なので、実際の効果を判断するは早計ですが、これからが楽しみに思えるパワーは感じています(岡村)。

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