OMRON

2030年に向けた長期ビジョンを心に響く物語として昇華

センシング&コントロール+Think技術を核とした産業向け制御機器やヘルスケア、社会システム、電子部品などの事業を展開するオムロンでは、2030年度に向けた長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」を策定。しかし、それを社内外に発表するには、さらなるバリューアップが必要でした。そこでBIOTOPEでは、このビジョンのストーリー化を行い、オムロンが手繰り寄せたい未来を可視化したうえで、そのために何をしていくべきかを定義する支援をしました。

Point

自分ごと化につながる10年長期ビジョンの構造化とストーリー化

長期ビジョン実装に向けた組織変革の道筋を提示

ビジョンストーリーライティング

ビジョンの可視化

組織行動変革

課題

グループ内のメンバーだけで2030年度に向けた長期ビジョンを一度は描き切ったものの、説明的な言い回しが多く、伝えたいことが伝わらないのではという不安があった。そのため多くの人に共感を得られるストーリー展開が必要だった。

BIOTOPEがしたこと

経営層や事業部長、代表社員のヒアリングなどを行いすでにかたちになっていた「2030年長期ビジョン策定ガイド」の物語化を実施。情報の精査やイラストによる可視化、手繰り寄せたい未来のための組織変革まで示唆する内容とした。

結果

BIOTOPEとのプロジェクト後に議論がさらに活発化。現場にも変化の兆しが見えてきている。また、組織文化を変えていかなければならないという提案は、制度化に向けて継続して審議中。主体的に動く機運が高まっている。

竹田誠治(左から)
Seiji Takeda

オムロン株式会社 執行役員 グローバル戦略本部 経営戦略部長
オムロンヘルスケア株式会社にて経営戦略、M&A業務に従事後、中国・上海にて現地法人副社長、米国・シカゴ、ブラジル・サンパウロにて現地法人CEOとして、ヘルスケア事業の営業、マーケティング、M&Aを統括。 2017年より現職。長期ビジョン、短期中期経営計画の策定と推進、M&A業務を行う。

北里朋大
Tomohiro Kitazato

オムロン株式会社 グローバル人財総務本部 企画室 業務推進課長
2007年にオムロンに入社し、インダストリアルオートメーション事業にて営業・商品企画を担当。同事業の経営企画室を経て、19年よりグローバル戦略本部 経営戦略部にて長期経営ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年からグローバルHR部門で、ダイバーシティ&インクルージョンを実現する人事戦略立案・推進とHRBP立ち上げプロジェクトに取り組む。

岡崎大甫
Daisuke Okazaki

オムロン株式会社 デバイス&モジュールソリューションズカンパニー
事業統轄本部 開発統括部 開発企画グループ長
2010年にオムロンに入社し、電子部品事業にて要素技術開発を担当。技術革新PJのチームリーダーなどを経て、19年よりグローバル戦略本部にて、長期経営ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年から電子部品事業に戻り、開発企画に従事。社会的課題を解決する電子部品事業への戦略転換を牽引すべく、開発プロセスの革新や組織能力強化に取り組む。

村越聖子
Satoko Murakoshi

オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー
商品事業本部 企画室 事業計画部長
1999年にオムロンに入社し、インダストリアルオートメーション事業にて営業・販促を担当。同事業の中国駐在、海外事業、経営企画室を経て、2015年よりグローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部でデジタルブランディングに従事。19年よりグローバル戦略本部にて、長期経営ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年からインダストリアルオートメーション事業に戻り、既存事業の深化と新規事業創造の加速、価値創造基盤のトランスフォーメーションを企画室からリード。

橋口直文
Naofumi Hahiguchi

オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社
社会ソリューション事業本部 公共ソリューション事業部長
2003年にオムロンに入社し、社会システムカンパニーにて鉄道事業の営業を担当。社会システムカンパニーの中国事業の現地責任者等を経て、19年よりグローバル戦略本部 経営戦略部にて長期経営ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年から社会システムカンパニーにて、鉄道事業の責任者に就任。コロナ禍で業界が大きく変革するなか、新たな価値創造や組織変革に取り組む。

榎並顕
Akita Enami

オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社
エネルギーソリューション事業本部 創発戦略部長
2002年にオムロンに入社し、光デバイスにおける新規事業開発や、環境事業の立ち上げに従事。11年より欧州に赴任、欧州・中東・アフリカにおける環境事業の拡大に取り組む。19年よりグローバル戦略本部にて長期ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年からは環境事業に戻り、エネルギー事業における戦略策定および新規事業・新サービス創出に取り組む。NTT西日本と環境領域での合弁会社である株式会社NTTスマイルエナジーの取締役を兼務。

野田達大
(リモート参加)
Tatsuo Noda

オムロンヘルスケア株式会社 国内事業統括本部 国内事業戦略本部長
医療機器メーカーにてマーケティング、事業企画、経営企画などの業務を担当。2019年にオムロン株式会社に入社し、グローバル戦略本部にてグループ長期ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年からオムロンヘルスケア株式会社に転籍し、国内事業戦略本部長に就任。ヘルスケア事業のビジョンである「脳・心血管疾患イベントゼロ」の実現に向け、家庭での心電図測定など予防医療の拡大に取り組む。

長期ビジョン「Shaping the Future 2030」

 

オムロングループでは10年に一度、長期ビジョンおよび中期経営計画の策定と開示を行っています。2030年に向けたプロジェクトは19年4月に発足。過去4回の長期ビジョンと同様、会社や事業部門の垣根を超えてグループの将来を担うメンバーが、グローバル戦略本部に集まり話し合いがスタートしました(竹田)。

長期ビジョンは経営層と議論しながら決めていくのですが、視座の高い話し合いに向けて自分たちが何かを提案しなければならず、通常の業務とは違う難しさがありました。各々が見ている方向や感じている課題もバラバラで、目線合わせにかなりの時間を要しました(橋口)。

常に悩んだのは「次に何を検討すべきか」という“問い”を見つけること。自分が所属する事業部門のことならいざ知らず、グループ全体のビジョンとなると、どこにどんな課題が眠っていて、何を検討すれば答えが見つかるのか、当初はまったくわかりませんでした。それでも20年4月には「2030年長期ビジョン策定ガイド」が完成。ビジョン名を「Shaping the Future 2030(略称SF2030)」と定め、約60ページにわたる資料にまとめました(野田)。

 

このままでは伝わらないという不安

 

長期ビジョンの策定ガイドの制作を進めていくなかで、ある程度、方向性は見えてきたものの、いまひとつ琴線に触れない部分が残っているような気がして、ずっと心に引っかかっていました。そんなとき、以前、何かの記事で目にしたBIOTOPEのことを思い出して、ホームページをのぞいてみたところ、デザイナーや歴史論者といった多様性のあるメンバーがいて、仕事のアウトプット方法も多種多様。この会社なら、我々にない観点やインスピレーションを与えてくれるのではないかという直感に従い、連絡したのが最初でした。そこで20年1月にオフィスを訪問し、すでに大部分ができあがっていたビジョンをさらにバリューアップできないかと佐宗さんをはじめとするBIOTOPEのスタッフに相談して、その後、ビジョンのストーリーラインをもう一度明確にしたい、と正式に依頼。自分たちがつくった分厚い資料は、説明的で伝えたいことが伝わらないという不安があり、BIOTOPEには我々のビジョン「SF2030」に命を吹き込み、生き物にしてもらいたい、とお願いしました(竹田)。

 

発信者と受け取り手のインサイトを掘り下げる

 

BIOTOPEに依頼後、最初に行ったのがビジョンの発信側となる社長や役員などの経営層に対するヒアリングでした。また各カンパニー長には「SF2030」を発表したあとに「どんな未来の社会を実現したいか?」などを聞き取り、後日、その内容をもとにBIOTOPEが作成したイラストを持参して話し合いの場を設定。遠い未来の話をビジュアルがあることで、手触り感のある現実の話として議論できたのが印象的でした。絵の力で相手の思いを引き出せたり、自分たちの考えが深まったり、イメージの共有がしやすくなったり、ビジョンの解像度がどんどん上がり、こういうコミュニケーションの方法があるのかと驚きました(村越)。

その後、ビジョンの受け取り手である代表社員を対象にしたヒアリングを実施。累計で100名以上だったと思います。なかでも印象深かったのは、日本、中華圏、アジア・パシフィック、米州の「TOGA(The OMRON Global Awards)」受賞者たちが、声を揃えるようにして成功した理由を「周りの支えがあったから」と語っていたこと。周囲の応援がチャレンジする人の能力を発揮させる、オムロングループの組織文化をあらためて感じました(岡崎)。

 

すでにある策定ガイドを物語に変換

 

インサイトが出揃ったところで、BIOTOPEには週1回、会議に参加してもらい、一緒に策定ガイドの物語化を進めました。我々が最初につくったガイドは情報量も多かったため、内容をどんどん削ぎ落として、物語に上手くハマるようなピースに落とし込んでいったのですが、そうすることによってメンバーの目線が合いやすくなる効果を感じました(北里)。

伝える内容を決めたあとでも、読み手との親和性や没入感が得られるように、物語の前後を何度も入れ替えて、いろんなパターンを試してみましたが、接続詞や表現の言葉をひとつ変えるだけで、まったく印象が変わってしまうのは大きな発見でした。そのおかげで自分たちがいちばん伝えたいものは何なのかを、突き詰めて考えることができました(岡崎)。

言葉でいくら説明したところで、伝わらなければ意味がないのは当たり前で、そこに没入できるような、物語を感情曲線で伝えていくBIOTOPEのやり方はとても面白いと感じました。議論を重ねて、言葉はそうとう練られたと思いますし、コンテンツも際立った。ストーリーラインができたときに「これが言いたかったことなんだ」と自信がもてました(村越)。

 

ビジョンを実装するための組織文化を議論

 

「SF2030」のビジョンステートメントは「人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを想像し続ける」ですが、それを実現するためには、オムロンが「Product Producer」のメーカーから、よりよい社会の仕組みを構想し、最適なオートメーションを社会に実装していく「Social Design Innovator」に変わる必要があります。“モノ視点”から“コト視点”へ、モノとサービスを組み合わせながら本質価値を追求するというのは、我々がこだわって入れた部分ですが、それをどう自分ごと化して取り組んでいくか、策定ガイドでは言及していませんでした。そこで思考の癖や口癖など、社員の行動を変えないといけないというところにまで話題がおよび、組織における文化について議論を深めたのが印象的でした(榎並)。

「TOGA」受賞者たちとの対話からヒント得た「応援する文化」の醸成が必要という議論は、それを広めることによってチャレンジする人だけでなく、応援する自分たちも変われると感じました。隣の人のチャレンジを批評するのでなく、そうした意識を頭の片隅にもつことで、自分の発言も変わるし、組織もバリューアップしていける気がしています(橋口)。

 

長期ビジョン発表後に社内に起きた変化

 

BIOTOPEとの取り組みで特によかったのは、社内で自分たちなりに一度ビジョンを描き切ったあとに、物語化の過程で各事業部を巻き込んで、それぞれのドメインにおける提供価値を明確にできたこと。あれはBIOTOPEによるイラストをもとにした議論があったから、上手く言語化できた部分だと思っています。7月から約半年におよぶ議論を経て、ビジョンストーリーの成果物を納品していただき、コロナ禍で延期していた長期ビジョン「SF 2030」の正式発表を22年3月に実施。社内の反応も良好で、なかでも“コト視点”という言葉は現場に浸透しています。いまはみんな明確な答えをもっているわけではありませんが、変わらなければいけない、という意識はかなり根付いていると思います(岡崎)。

プロジェクトが終わって事業部に戻りましたが、モノからモノとサービスを加速するという議論は、部内でもとても活発にしています。自前主義にもこだわっていなくて、新たなソリューションを実現するためのパートナー探しも積極的。早くそれをやっていくための仕組み自体を変えていく、という姿勢にも感動しています(村越)。

タネは残ったか

実は、最終的に「SF2030」のなかで、BIOTOPEの成果物をそのまま使ったのはスライド一枚程度だったんです。というのも納品後、それをもとにバリューアップしようという動きが社内であり、さらにメンバー内で議論して調整したのですが、いままでなかなか言い当てられなかったオムロンの未来における提供価値を、言語化できたのはBIOTOPEのおかげでした。文化を変えないといけないという部分は、ビジョンにはほぼ入っていませんが、実際に何をやるべきか、どういう施策に落とし込むべきなのかをいまも議論中です。限りある時間のなかで答えが出せませんでしたが、それを我々が引き継ぎ、ありたい組織文化を議論し、その文化を醸成していくための仕掛けや制度を検討していることは、すごく意味のあることだと思っています(竹田)。

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