HAKUBA

100年後も自然と遊び続けられる村になるためのビジョン

ウインタースポーツの聖地・白馬村では近年、温暖化による雪不足が深刻です。そんな危機的状況を受けて2019年9月に「グローバル気候マーチ」を地元高校生が企画し、同年12月、白馬村が白馬村気候非常事態宣言を発令しました。そうした背景から気候変動に立ち向かい、持続可能な社会に動き出すためにサーキュラーエコノミーの考えを取り入れたビジョン作成プロジェクトを開始。BIOTOPEではワークショップ「HAKUBA Vision Design BootCamp」などを通じて白馬村の未来ビジョンを構想する支援をしました。

Point

地方行政と共に、村のサーキュラービジョンを開発

気候変動に立ち向かうための戦略に紐づくビジョンマップを作成

大義のデザイン

ビジョンの可視化

コピーライティング

ワークショップ

サーキュラーエコノミー

課題

雪不足による観光客減少で村の経済が大きな打撃を受けたことから住民の気候変動への意識が向上。村一丸となって行動を起こすためには、各々の思いを汲みながら村が目指すべき未来を指し示すビジョンが必要だった。

BIOTOPEがしたこと

白馬村と村外の事業者、白馬高校の生徒など多様なバックグラウンドをもつ人々約50名が参加するワークショップをプロデュース。白馬村の未来のあり方をみんなで話し合い、ビジョンに統合するのを支援した。

結果

ビジョン作成の過程で生まれたプロジェクトを実装する動きが出てきた。また村役場内に「ゼロカーボン評議会」が立ち上がるなど、村全体で取り組みを行っていく土台ができたことで住民の意識に変化が現れ始めた。

福島洋次郎
Yojiro Fukushima

一般社団法人白馬村環境局 事務局長
カナダのブリティッシュコロンビア州立Langara College人文学部卒業。帰国後、地元・白馬の白馬東急ホテル入社。フロントスタッフなどを経て、海外営業担当として豪州をはじめ、アジア各国、イギリス、フィンランドなど年間30日以上を現地海外営業に費やし、自ホテルだけでなく、白馬全体のインバウンド誘客に勤しむ。2016年に退社し、現職に就任。国内外からのさらなる観光客誘致、白馬ブランド確立を目指し、バックカントリーエリアを使ったスキー・スノーボードコンテスト「FREERIDE WORLD TOUR」の誘致を実践。また、20年より環境に配慮した経済活動の新たなモデルとなるサーキュラーエコノミー推進を目的としたワーケーション&MICEイベント「GREEN WORK HAKUBA」を開催している。

気候変動による温暖化の危機的状況が背景に

 

白馬村では近年、冬季だけに頼らない通年型の観光地への転換を目指し、マウンテンバイクやトレイルラン、自然体験学習など、さまざまなコンテンツ開発を行っています。しかし、昨今の雪不足が村の経済に及ぼす影響は深刻で、そうした気候変動に対する危機感が、2019年9月の地元高校生による「グローバル気候マーチ」の企画や、同年12月の白馬村気候非常事態宣言の発令につながりました。20年9月からは広告会社の新東通信内に設置された「CIRCULAR DESGIN STUDIO.」と協力して、「GREEN WORK HAKUBA」プロジェクトを開始。村の豊かな自然を次世代に残すために、地元企業と村外のパートナー企業が共にサーキュラーエコノミーについて学ぶカンファレンスやワークショップなどを実施しています。BIOTOPEさんとの交流は、21年3月に開催した「GREEN WORK HAKUBA vol.2」で佐宗さんにスピーカーとして登壇していただいてから。佐宗さんの著書を読んで、地方創生もそういう考えで取り組むべきだと思っていた時期でした。

 

従来の地方創生の取り組みに対する違和感が発端

 

地方創生の取り組みはPDCAサイクルをとにかく繰り返して、それを確立することが成功のカギといわれています。しかし以前からそうした意見には違和感があり、その前にすべての根幹となるビジョンが必要だと考えていました。我々にノウハウがなかったため、手付かずの状態でしたが、vol.2を終えてチーム内から「今後もGREEN WORK HAKUBAを続けていくうえで、“何のためにやっているのか”を可視化したい」という声が挙がり、これまでの経緯を含めて佐宗さんに相談したのが、今回のビジョン作成プロジェクトが発足する引き金になりました。白馬村のビジョン構想のプログラムを組み立てるにあたり、BIOTOPEさんが最初にこだわったのが、これからの未来を生きる若い世代の目線を入れること。本番の「HAKUBA Vision Design BootCamp」を開催する前に、佐宗さんが白馬村の気候変動に対する取り組みのきっかけになった白馬高校を訪ねてワークショップを行い、その後、参加者を募りました。

 

白馬高校で実施したワークショップの様子。

 

多様な背景をもつ人々と共に未来ビジョンを構想

 

「HAKUBA Vision Design BootCamp」は、21年6〜7月に開催。地元企業や村外の企業に加えて、住人や高校生、スキーやスノーボードで頻繁に村を訪れる人など、村にかかわりのある人々約50名が参加して、サステナブルなマウンテンリゾートを目指す白馬村の未来のあり方を考えました。最初はオンラインで話し合い、その後、実際に村に集まって3日間のプログラムを実施。1日目は村内を歩きながら、この地域にこんなものがあったらいいという想像を膨らませて、2日目にそれを絵にしたビジョンスケッチを発表後、貼り出してみんなで鑑賞し、3日目には「循環型ゲレンデ」や「食」「モビリティ」「ベンチャー特区」などのテーマごとに7チームに分かれ、前日までに出たアイデアを行動に移すプランを練りました。いろんな場面で予想していた以上に参加者の議論が白熱していたのが印象的で、地元高校生から「身近にすごい大人がいることに気づけたことがうれしかった」という感想が寄せられたのにも希望がもてました。

 

個々が抱く理想の白馬村を妄想し、意見をぶつけ合った「HAKUBA Vision Design BootCamp」。

 

内面を掘り下げる問いから参加者の本心を引き出す

 

BIOTOPEさんとのブートキャンプで大きな学びになったのが、ファシリテーションのしかた。佐宗さんは議論の最中、発言者に「それはどういうこと?」「なぜそう思ったの?」という質問を頻繁に投げかけていましたが、そうすると聞かれた側が、自分がなぜそう言ったのかを深く考えるようになります。大人数で行うワークショップでは表層的な答えが多くなり、本心を引き出せないケースがよくありますが、佐宗さんの場合、普通なら見逃してしまうような発言も問い直して、意識の底から本当に言いたかったことを掘り下げてくれるので、参加者は自分の内面を振り返るきっかけにもなったと思います。さらに、意見が食い違っても対立することなく、ある種の妄想を交えながら建設的な議論に発展することができたのもやはりBIOTOPEさんのおかげ。こういうファシリテーションの方法は誰にでも真似できるものではありませんが、参加者の声を丁寧に拾い上げ、巻き込んでいくプロセスはとても参考になりました。

 

バラバラだった白馬愛を言葉の力でビジョンに統合

 

ビジョンのコピーとビジュアルづくりは、「HAKUBA Vision Design BootCamp」終了後に、そこで出揃った材料をもとに白馬村観光局とBIOTOPEさん、CIRCULAR DESGIN STUDIO.の3者で実施。ビジュアルとなる一枚絵は、いろんなことをやりたい人たちがいて、それがどうつながるか、ブートキャンプの時点で何となく見えていたので安心していましたが、難しかったのがコピーワークでした。例えば、100年後も自然のなかで遊び続けられる村にするには、変わらなければいけないのですが、“続ける”と“変わる”では言葉の方向性がまったく違います。でも、その両方のニュアンスを残しておきたい気持ちが強かったので、言葉選びにはとても悩みました。また、サステナブルな未来を目指すからといって、真面目な感じになってしまうと、雄大な自然を遊び相手として暮らし、楽しみのなかで多くの学びを得てきた村の人々の心には響かないでしょう。だからこそ、その挑戦も遊ぶような気持ちで前向きに取り組んでいく、という意志をどう伝えるかにもこだわりました。最後までコピーワークには苦労しましたが、言葉づくりによってビジョンが統合されていく過程は非常に刺激的でした。

 

完成したビジョンを村の内外に受けて発表

 

その後、「HAKUBA Vision Design BootCamp」の参加者たちとオンラインミーティングを行い、各チームのプランを実装するためのアイデアをブラッシュアップ。それと同時に、約1カ月かけてビジョンの最終版をまとめました。「サステナブルを遊ぶ、企む、つくる。」というコピーがようやく決まり、BIOTOPEさんに制作していただいた「2030年の白馬村でできること」をテーマにしたビジュアルを目にしたときの喜びは、まさに感無量。スタート地点に立てただけとはいえ、出来上がった瞬間はやり切ったという思いがありました。完成したビジョンは「HAKUBA CIRCULAR VISION」として、21年9月に開催した「GREEN WORK HAKUBA vol.3」で村の内外に向けて、ブートキャンプ中に生まれた7つのプロジェクトとともに発表。反応はかなり良好で、白馬村を気候変動に対する最新テクノロジーと、自然と共生し楽しむ暮らし方をつくっていく実験場にしていく、という強い気持ちを多くの人と共有することができました。

 

「HAKUBA CIRCULAR VISION」のビジュアル。

 

今後はビジョンを行動に移す賛同者を増やすことが目標に

 

BIOTOPEさんからの最終納品資料は、白馬村の観光協会などでサステナブルやSDGsの勉強会などを行うときに活用しています。年配の参加者が多い集まりでは、カタカナ部分はなるべく日本語に直して説明していますが、賛同してくれる人が多く、確かな手応えを感じています。HAKUBA CIRCULAR VISIONは発表後、地元新聞などで紹介されたり、観光局内にもパネルを展示しているので、村内での認知度はすでに十分。今後は見たことがあるから、その実現に向けて行動に移す人たちを増やしていくのが目標です。幸いにも、プロジェクトのうちのひとつはすでに始まっているほか、「GREEN WORK HAKUBA vol.4」も22年7月の開催に向けて準備中。さらに4月には、白馬村役場のなかに「2050年二酸化炭素排出量実質ゼロ」を目指して「ゼロカーボン評議会」が立ち上がりました。観光局のほうでも、住民が楽しみながらサステナブルに挑戦できる取り組みを仕掛けていくアイデアがあり、ビジョンができたのをきっかけに、みんなの意識が少しずつ変わり始めています。

タネは残ったか?

白馬村には、環境問題などに感度の高い人たちがいるため、もともとサステナブルな暮らし方を志向する素地はありましたが、今回作成したビジョンはこの先どちらに進めばいいのか迷ったときに、行き先を照らす灯台のような役割を果たしてくれると思います。また、佐宗さんには取り組み終了後に、HAKUBA CIRCULAR VISIONの実現に向けて白馬村観光局のビジョンアドバイザーに就任していただきました。将来的にはこのビジョンをきっかけにした挑戦が、新しい産業を生み、サステナブルを学ぶという新しい滞在理由をつくり、サステナブルツーリズムの聖地となることを目指していきます。

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