Synecoculture ™️

社内外に自らの価値を浸透させるためのビジョンデザイン

Synecoculture(シネコカルチャー)プロジェクトはソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)による「協生農法」の研究開発を中心に、その成果の社会還元と普及活動を行う一般社団法人シネコカルチャーと、協生農法の原理を活用して多様なサービスを展開する株式会社SynecO(シネコ)からなるチームです。BIOTOPEではワークショップを実施し、課題となっていた3社間の役割分担や新規メンバーへの文脈共有を行い、各々の活動意義と事業領域を整理。社内外にそれを伝えるためのフォーマットづくりを支援しました。

Point

研究開発・社会実装・文化浸透という役割の異なる三つの事業体の協働

生物多様性という先進性の高いビジョンの可視化

社内知見を共有する共通言語フォーマットの醸成

ビジョンの可視化

システムマップ

カルチャーデック

3社合同

オンラインワークショップ

課題

株式会社SynecOの立ち上げに伴い、メンバーが幅広い事業内容を把握し切れていなかった。組織の壁を超えてチーム内での事業目的・目標の共通理解を深め、さらに社外向けに事業概要を伝えるためのツール作成が必要だった。

BIOTOPEがしたこと

ワークショップを通じミッション、ビジョンの共通理解を促進。ビジョンストーリーの整理やシステムマップなどを作成した上で、カルチャーデックへの統合を行い、投資家などに事業概要を伝達するためのフォーマットづくりを支援した。

結果

事業領域が見える化されたことで、3社間での役割分担が明確になり、メンバー同士が自主的に議論するようになった。現在もカルチャーデックの更新は続いており、さらに精度を高めることでプレゼン用のツールとして期待されている。

舩橋真俊(左)
Masatoshi Funabashi

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー。一般社団法人シネコカルチャー 代表理事。株式会社SynecO 代表取締役。東京大学獣医学課程卒(獣医師免許保持)。仏エコールポリテクニク大学院にて物理学博士(Ph.D)取得。生物学、数理科学を学んだ後、複雑系科学を経て2010年よりソニーCSL研究員。サスティナビリティ、環境問題、健康問題の交差点となる食糧生産において、生物多様性に基づく協生農法(Synecoculture)を学術的に構築。主に日本とアフリカ・サブサハラにおいて実証実験を行う。18年に一般社団法人シネコカルチャー、21年に株式会社SynecOを設立。人間社会と生態系の双方的な回復と発展を目指し、活動領域を農業から生態系全体に拡張している。

本條陽子(右)
Yoko Honjo

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチアクティベーショングループ。一般社団法人シネコカルチャー 理事。慶応義塾大学文学部卒。ソニー株式会社に入社後、企画部門、VAIO事業部などを経て2007年よりソニーCSL。09年から東京国立博物館のナビゲーションガイド「トーハクなび」の制作や「笑うと花が咲く」をコンセプトにした「エミタメ」などのプロジェクトを展開。現在は研究所全体のコミュニケーションをはじめ、研究成果を広報するリサーチアクティベーションに従事。18年3月より一般社団法人シネコカルチャー理事を兼任。08年、米国Project Management Professional (PMP) 資格取得。11年、学芸員資格取得。

世の中をよりよく変えていく研究所

 

ソニーCSLは、誰もやっていない研究に取り組むこと、そしてそれが世のため人のためになる研究であること、をモットーにする研究所です。わたしはここの研究員として、協生農法に関する研究を行い、科学的定式化と検証を経て、実践と改良を重ねてきました。協生農法とは、「人間による生態系の拡張」という「拡張生態系」の考え方を基盤に、生態系が本来もつ能力を活用する農法のこと。食料生産だけでなく、環境や健康に与える影響まで包括的に考えられた生態系の活用法であることが特徴です。具体的には、土地を耕さず、肥料や農薬も使わずに、多種多様な植物を混生・密生させた生態系の営みによって食料生産を向上させる露地作物栽培法(屋外の畑で野菜や果樹などの有用植物を育てる栽培法)のことをいい、2015年から継続しているアフリカ・ブルキナファソの実証実験では、砂漠化して自然回復不可能だった土地に約150種の現地作物を用いたこの農法を導入し、1年間で森林生態系の回復に成功しました(舩橋)。

 

生態系の崩壊まで猶予がないなかで

 

現在、世界各地でかつてない速度で野生生物の絶滅が進行しており、2045年までに地球上の生態系が全体的に崩壊し、回復不可能なほどに損なわれることが危惧されています。その主要因として挙げられるのが、農業による生態系の破壊です。近年の傾向である農業の大規模化と単作化が続く限り、地球の物質循環を破綻させ、気候変動を引き起こし、海洋生態系を脅かすなどの環境問題は悪化する一方でしょう。さらに、生産性を重視するために使用してきた肥料や農薬は、食の安全と健康にとって大きなリスクをはらんでします。協生農法の実践は、食料生産を起点にして持続可能な食・健康・環境の良循環を達成するため。我々の健康と地球の健康の両方を取り戻すには、生態系を破壊しない方法へ食料生産を転換しなければなりません。わたしは生物学全般と数理科学、物理学を修めたうえで、複雑系の理学的な知見をベースに生態系をとらえていますが、協生農法は慣行の農業の延長にあるのではなく、食料生産を行う生態系として理学的視座からの考えを応用した新しい栽培法なのです(舩橋)。

 

協生農法を通じて社会問題の解決を目指す

 

協生農法を行っている農場では、人間が介在することで生物多様性が大きく拡張され、野菜や果樹などの有用植物だけでなく、その間に生える雑草や寄ってくる虫、動物などの多くの生き物が互いの生存を支え合う関係が築かれています。協生農法では、このように生態系が自分の力で発展していく複雑な機能を前提に、そこに人間にとって価値のある植物をできるだけ多様に編み込んでいき、経済的価値も発揮できる生態系を丸ごとつくって管理していくことを目指しています。また、この農法をはじめとする拡張生態系で共存できる生物種の組み合わせは、自然生態系で観測できる多様性よりもはるかに多く、こうした超多様な関係をマネジメントするには、ビッグデータや人工知能を駆使した組み合わせや最適化が有効です。ソニーCSLでは、そのような拡張生態系のマネジメント技術も開発しており、その支援技術は世界の大多数を占める小規模な食料生産の現場で活用されることで、グローバルな環境にも大きなインパクトをもたらすことができると考えています(舩橋)。

 

研究所と社団による活動で協生農法の可能性を拡大

 

協生農法を社会に普及させ、ソニーCSLで行う研究成果を広く還元するために、2018年に一般社団法人シネコカルチャーを設立しました。そして、六本木ヒルズの屋上庭園における協生農法および拡張生態系の実証実験や、生態系について学べるプランター型の体験学習キットとして「シネコポータル」の開発など、協生農法の原理を食料以外の教育や生活圏にも活用し、多様な生態系サービスを高める取り組みを続けています。また、生物多様性が拡張された協生農法で採れた作物は、慣行農業のものより多くの生理活性物質を含み、土壌微生物由来の栄養素も豊富。腸内フローラ(腸内細菌叢)などを通じて人々の健康に寄与できるだけでなく、拡張生態系は今後、福祉や都市計画などへの応用も期待されています。人類の歴史は、生産性の向上(経済発展)と環境破壊のトレードオフの上に成り立ってきましたが、このシステムが限界を迎えつつあるいま、協生農法をはじめとする拡張生態系は持続可能な経済と環境のバランスを実現させるために有用な手段となり得るのです(舩橋)。

 

事業化に向けて

 

これまでの活動で得た知見などをもとに、本格的な事業化を推進する会社(株式会社SynecOを2021年4月設立)の立ち上げが決まりました。メンバーも増え、社内外とどうコミュニケーションしていくかを考えていたとき、旧友の佐宗さんとお会いする機会があり、「本質的にやりたいことはあるけれど、どうかたちにしていいのか試行錯誤している」という話をしました。通常の戦略コンサルでは、何も決まっていない段階で議論しながら文脈をつくっていくゼロイチの仕事よりも既存の事業をアップグレードする方が多いと思いますが、佐宗さんは「そういう所から関わるのが、BIOTOPEにとってのクリエイティブだ」と言っておられたのが印象的でした。だから今回のBIOTOPEさんとの取り組みは、デザイン思考をやりたいとか特別な目的があってお願いしたわけではなく、クリエイティブな予感はありましたがなんとなく始まった感じでした(舩橋)。

ソニーCSLでは、研究者一人ひとりが自分自身で目標を立てて研究を遂行していますが、舩橋は10年以上前から協生農法の研究・実践にほぼひとりで取り組んできました。一般社団法人の設立には社員2名以上が必要だったため、わたしがサポートするかたちで途中で加わりましたが、いまいるメンバーは古くても数年前から。兼務が多いのに加え、今回のSynecOの立ち上げでは新規メンバーも増えて、舩橋のなかにある知識やノウハウをみんなが完全には理解していなかったため、かなり漠然とした状態からのスタートとなりました。そこで最初は、佐宗さんにチーム内の状況把握と整理のために3つの組織を横断して1〜2時間のインタビューをしていただきました(本條)。

 

ストーリーラインをもとに議論を発展

 

インタビューを行うと、佐宗さんの問いかけはこうだけれど、チームとしてどう答えれば良いか、自分はどう思うかなど、聞かれたほうはいったん客観視して相対化したうえで言葉にします。メンバーといっても研究所と社団では職種がばらばらで、キャラクターもだいぶ違うため、当初はコミュニケーションの円滑化というより、ノイズを入れて引っ掻き回すような側面が強かったように思います。チーム内で紛糾することもありましたが、そういうカオス状態を一緒に楽しんでくれる外部パートナーはほぼいないので、メンバーにとっては自主的に考える良いきっかけにはなったのではないでしょうか。その後、佐宗さんがそのインタビューをもとに、協生農法と関連領域を含むSynecocultureの「ビジョンストーリー」の草稿を書き下ろしてくださり、ようやく一本筋が通ったなかで議論を進められるようになりました(舩橋)。

メンバー内では協生農法がみんなの共通項ですが、舩橋中心で行ってきた研究のため、彼の言うことを絶対視してしまう傾向がありました。そういう意味では、各々が自分の頭で考えて言葉を紡ぎ出す場は貴重な機会だったうえ、これまで活動を続けてきて研究とは違う領域に踏み込んでいくなかで、それぞれが抱えていた悶々とした気持ちの整理になったと思います(本條)。

 

将来の事業活動領域を決めたことで話し合いが活性化

 

佐宗さんからビジョンストーリーの草稿をいただいた後に、「次は3社合同の場づくりのためにワークショップをやってみましょう」という話になり、大まかな方向性だけ決めてアウトプットはやりながら考えることにしました。当初はSynecOの広報用素材を作成するつもりだったのですが、話し合いを進めるうちに、社団を窓口にしてSynecocultureチームの3社共通の素材をBIOTOPEさんと一緒に修整しながら発展させていくという、いまのかたちに落ち着きました。ワークショップは前半2回を2021年4〜5月、後半2回を7〜8月にフルリモートで行い、3社から計20名ほどが参加。前半では都市地域と生態系荒廃地域、個人と社会に分けて将来のドメイン(事業活動領域)を6つ設定して、そこでの提供価値や循環の様子を書き起こす「システムマップ」のドラフト作成にとりかかりました。ドメインを決めたことで何か変わったかというのは見えにくいのですが、それによってとりあえず共通の土俵ができました。そうすると、わたしひとりでこれまで全部一緒くたにやってきたことを、メンバーが自分たちの知恵を絞って考える類似体験ができます。わたしは普段、細かく指示は出さないのですが、ワークショップを通してわたしがいなくてもメンバー同士が話し合えるようになるなど、チーム内に変化の兆しが見られたのは大きかったと思います(舩橋)。

 

システムマップの作成を通して共通言語を模索

 

2回目はシステムマップの精緻化とKPIの設定を行いましたが、こうしたワークショップをきっかけにして、3社それぞれが自分たちの向かう先、アイディンティティを明確化していったように思います。また、ワークショップにおけるモチベーションのひとつとなっていたのが、チーム内の共通言語を見つけ出すこと。社団には比較的アカデミックレベルが高いメンバーが多いのですが、システムマップの議論でも、わたしが「この言葉の用法は違う」と指摘する場面があるなど、抜け落ちている知識がいろいろあり、これは一度かたちにしたから見えてきた課題でした。考えてみれば専門家同士でも、言葉に関しては違う使い方をしていますし、そういう言葉の解像度をチームとして継続的にチューニングしていく必要があります。あとはシステムマップをつくったことによって、すぐにできることと、長い目で取り組んでいかなければならないことが明らかになったのも良かった点で、長期的に我々の存在価値を語っていくための覚悟を共有できたのは収穫でした(舩橋)。

最近、社団のほうでは、BIOTOPEさんに作成いただいたシステムマップなどの資料をもとに、深掘りを行っているのですが、第三者の目でまとめていただくと自分たちにとって違和感のあるところと、ないところが逆にわかりやすくなるのだと思います。一つひとつの言葉は難しくないのだけれど、意味を深く考えて進まないといけない、最初の認識合わせができたという点でも、今後さらに重要になっていくように感じています(本條)。

 

言葉の精度を高めるのは終わりのない作業

 

7〜8月ではビジョンの自分ごと化と将来の事業価値の明確化のために、未来日記の共有や未来年表のタイムライン化を行い、3社合同のビジョンストーリー作成と、前半でつくったシステムマップをもとに実現したいシーンの可視化(世界観スケッチ)に向けたワークショップを実施しました。わたしはこの後半2回からの参加でしたが、実はワークショップの終了から3カ月以上経ったいまも、社団ではそれら資料の深掘りを続けており、言葉の解像度を高めているところです。「こんなふうにも解釈できるのではないか」「これだと伝わらないのではないか」など、メンバーのなかで自主的に深い議論ができるようになったのは、BIOTOPEさんにつくっていただいた成果物があるからこそ。時間をかけて、少しずつ更新しながら精度を高めていっている印象です。スケッチのほうも、いろいろ切り取っていただくと、それに対してのコメントは言えるので、すごく細かい部分と思われるかもしれませんが、あらためてそういう作業が重要だということを気付かされました(本條)。

 

共通言語としてのカルチャーデックをチームで更新

 

その後、BIOTOPEさんから成果物のドラフトを共有していただき、3社内での話し合いをした後、自社における重要な価値観や企業文化のガイドとなる「カルチャーデック」の議論を進めました。ビジョンストーリーのほうはわたしがあまり口を出さず、いまも社団のメンバーに更新を任せていますが、なかでもインパクトがあったのが4コマにシーンを区切ったスケッチの表現方法が、ゲームの「MINECRAFT」風のタッチだったこと。すごく複雑で、研究側としては掘り下げようとすればいくらでも細かい論理展開できるものを、思い切って抽象化してしまっていたところが新鮮で、あれをプレゼンなどに使ったときに、どんな反応が起きるのかを検証したいというモチベーションが生まれました。ああいう方法でビジョンのマイルストーンを相手に説明するという発想は自分のなかにはなかったので、チームが今後どういう使い方をしていくのかに非常に興味があります。“誰に対して、何を伝えたいか”という部分で、我々は“何を”はもっているのですが、“誰に”という切り口に関してはBIOTOPEさんから多くの示唆をいただきました。潔い表現を含め、そういったノウハウはデザイナーさんならではという印象を受けました(舩橋)。

 

 

Synecocultureはソニーグループ(株)の商標です。

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