次世代の建築集団として何ができるのか?
これからの建築や自分たちの存在意義、次の成長戦略や事業の柱などを考えるうえで、指針になるものがほしいと考えていたときにBIOTOPEさんのことを知り、2020年3月にオフィスにうかがいました。そこで話し合うなかででてきたのが「次世代の建築集団とは?」という問いと、そのための探索・挑戦領域としての「サーキュラーエコノミー」というキーワード。以前から気にはなっていたものの、それをどう自社にインストールしていくかわからず悩んでいた言葉が、ここでも出てきて、“すぐに真剣に取り組まないといけない”という気持ちになりました(岡)。
社内ではサーキュラーエコノミーに関する議論がまったくされていなかった時期でしたが、岡からこの未来事業構想プログラムの概要を聞いて、即座に面白そうだと感じました。岡は新規事業の領域で、私は組織全体のなかでイノベーション人材を育てるという大きな課題があり、社員への啓発が不可欠だったため、将来を見据えてもこれは実施すべきだと考えました(福井)。
フルオンラインだからこそ実現できた現場・グループ会社を巻き込んだプログラム
研修を開催したい旨を経営層に伝えると、すぐに承認が得られました。しかし問題は30人のメンバーをどう集めるか。社内的な役割として企画中心の本社と現場でビジネスを推進する本支店のふたつに大別され、本支店のスタッフは常に忙しいので、企画系の研修には声をかけないのが暗黙のルールでした。ただ、サーキュラーエコノミーを本社だけで考えても意味が薄れてしまうため、事業を回している本支店をいかに巻き込むかに力を注ぎました(岡)。
従来のこうした集まりは、各部署を代表して参加するのが慣例だったのに対し、今回はグループ会社も含めて、立場や年齢、性差を超えて、多様性を意識したキャラクターを集めることができました。コロナ禍の影響でリモートワークが主流になっていたため、東京だけでなく、名古屋や大阪など、場所を限定せずに全国から参加者を募れたのもよかった。フルオンラインが当たり前の世の中になったからこそ、実現できた取り組みだったと思います(福井)。
請負型のマインドセットを転換し、自分発で事業を生み出す自律的な場づくり
社員一人ひとりと話してみると心のなかに熱いものをもっているのに、日ごろの仕事が請負中心のため、設計図通りのものをつくることがいちばんになっていました。でも本当は自分たちがつくりたいまち・建築の理想像があって、それが新たな事業モデルになるのではないかという仮説があり、今回のワークショップでは個人の思いを起点にすることに焦点を絞りました。企業人としての意見ではなく一個人として何をやりたいかが問われたため最初は戸惑いが見られましたが、BIOTOPEさんの自律性を引き出す場づくりのおかげで、ここならしがらみなく安心して自分を自由に出していいんだとわかると、みんなが本来の自分の姿に気づいて、徐々に表情や目の色が変わり始めたんです(岡)。
初期インプットセッションも効果的だったと思います。サーキュラーエコノミー分野のフロンティアであるVUILDの秋吉浩気さんやパソナの加藤遼さん、石坂産業さんなどの話から、メンバーがどんなインスピレーションを得るのかを静観していました。普通ならまず循環のループをきれいにつくらなければいけないと考えてしまいやすいところを、そうでなくてもいいと教えてもらったのは大きな気づき。“HOW TO”の罠にはまらない、発想の転換になったと思います。NPO法人ETIC.さんとも協働して進めた計3回のインプットはサーキュラーエコノミーという言葉が社内に浸透していなかったこともあり、社内でオープンに開催したのですが、毎回70〜100人ほど参加者がいて、予想を上回る注目度の高さを感じました(福井)。
デジタルツールを最大限活用したオンラインならではの体験設計
普段の仕事では、自分の内側にある思いを共有し合うことをあまりしないので、参加メンバーにとって新鮮で貴重な体験になったと思います。インプット、関心テーマにもとづくトレンドリサーチが終わった段階で個人が探索したいテーマをそれぞれ提出し、それにもとづいたチーム編成を経て、チームでの探索テーマの設定・深掘りの期間に移りましたが、このあたりからグッと熱量が上がった印象があります。オンラインでほかのグループの進捗具合が見られたのも、自分たちの立ち位置を知るための指標になり有効でした(岡)。
事務局の4人が事前にどの参加者・チームを担当するかを決めていて、それぞれが受けもつメンバーたちの動向を重点的に見守ることにしました。Teamsを活用し、ワークショップとワークショップの間でも、各チームの状況をいつでもオンラインで確認可能だったため、探索しているテーマを一緒に考えたり個別で接したりしながら、満遍なくフォローアップすることができました。チャットのやりとりも可視化できたため、誰がリーダーシップを発揮していて、誰がそれをアシストしているのかがわかったのも新しい発見でした。今回は、デジタルコミュニケーションのメリットを、最大限に活用できた取り組みになったと思います(福井)。
探究心に火がつき各チームが自走したリサーチフェーズ
その後、前半で行ったテーマ探索から後半のアイデア構想に向けて、そのテーマに関連する有識者や実践者、生活者へのフィールドリサーチを実施したのですが、みんな通常の業務に追われて時間がないなか、どんどん自分たちでアポをとって、実際に現場に会いに行くチームまで出てきたのは期待していた以上の効果でした(岡)。
有識者の話を聞くのは大事ですが、これまでは現地に行って対面でインタビューするのが常識でした。しかし、それをオンラインでできるようになったのは、本当の意味で知見に触れるとはどういうことなのかを考えるきっかけになったと思います。BIOTOPEさんには海外の専門家へのヒアリングもセッティングしていただき、これまではつながれないと思っていた人にも、パッションさえあれば話を聞いてもらえるとわかったのも大きな収穫。ワークショップの合間に自発的にチームで集まって、次に向けて議論をするようになったのも驚きでした。脱炭素やDXなど建設業界を取り巻く環境が大きく変化するなか、うちの社員がそうした壁を怖いものではなく、乗り越えてゆくものとしてとらえていることを頼もしく思えました(福井)。
予定や計画にとらわれず、つくっては壊すを繰り返したアイデア具現化フェーズ
9月から始まったワークショップも、年が明けるといよいよアイデア具現化のフェーズに入りました。個人の探索テーマを全体として考えたときに、あらためてどういう機会領域があるのかチームごとに取り組みましたが、私が自分に課していたのは出てきたアウトプットにコメントしたり、コントロールしないこと。2月の終わりに経営層への報告会を予定していたため、かたちにならないかもしれないという不安もありましたが、参加者を信じてダメだったらしかたないと福井と覚悟していました。このフェーズではアイデア発想から専門家・有識者のメンタリングセッションを経て、それを具体化するという流れでしたが、参加メンバーたちのラストスパートがすごくて、これまでつくってきたものを一度壊してさらにもう一段階前に進めるという熱意に圧倒されました。通常の業務では壊したら納期に間に合わないので予定通り進めることを優先させますが、自分たちが納得のゆくまでやり切れたのはBIOTOPEさんがつくってくれた場のおかげ。私たち世代は枠の中でいかに効率よく利潤を上げることがノルマでしたが、これからはテーマ自体を自分でつくっていかなければいけない時代です。今回のワークショップでは、発想法を切り替えるとか、着想を変えるとか、着眼点をズラしてみるといった型にはまらない考え方を、参加メンバーに体験してもらえたのではないかと思います(岡)。
自社にとってのサーキュラーエコノミーの機会を可視化した戦略マップを制作
報告会は役員をはじめとするキーマンが参加し、オンラインで100人以上が視聴。4つの機会領域と7つの事業アイデアを提案し、経営層からも高い評価を得ることができました。いま振り返ってもサーキュラーエコノミーという概念は社会的な意味では理解できても、竹中工務店がどう取り組めばいいのかが見えにくく、言語化するのが難しかったと思います。それをBIOTOPEさんに“建築・建設”から“まち・暮らし”“産業・文化”の領域にまで広げ、そのなかで自社が何をしていけるのかを「機会領域マップ」としてペーパーに落とし込んでいただけたのは本当にありがたかったと感じています。これは、絶対に私たちだけではできなかったアウトプットの方法で、この一枚があれば、竹中工務店にとってのサーキュラーエコノミーが何なのかを簡単に説明できます。今後はこのマップをもとに、どこをどう攻めるかを考えられるので、頭のなかがかなり整理されたと感じています(岡)。
5カ月間におよんだ今回のワークショップは、次年度以降の取り組みにつなげていくためのものでしたが、この半年でサーキュラーエコノミーに対する社内の意識が大きく変わったと感じています。ちょうど報告会前のタイミングで、竹中工務店として政府発表の「2050年カーボンニュートラル宣言」に歩調を合わせて取り組んでゆく姿勢が正式に発表されました。脱炭素社会の実現のためには非常に高いハードルがありますが、我々としてはひとつの打ち手がこのマップ。重機や素材のメーカー頼りではなく、私たちだからこそできる視点が編み出せるかもしれないと楽しみにしています。これまでは現在と2050年をつなぐラインが見えませんでしたが、これでようやく見えるようになってきたのではないかと受け止めています(福井)。