宇宙をみんなの身近に変えて、科学と社会を接続
ALEでは、人工的に流れ星を流すための人工衛星を開発しています。その根底には、人工流れ星をエンターテインメントとして楽しんでいただく一方、壮大な科学実験として基礎科学や科学技術の発展に貢献したいという気持ちがあります。科学の代表ともいえる基礎研究は、過去人類の大きな進化をつくってきました。ところが、実際の現場では異口同音に、未来への投資が先細りしている危機感が叫ばれています。そこで、基礎研究そのものをエンターテインメントにすることで、成果だけでなく、プロセスを価値に変えられないか、というのがALEを設立したきっかけです。
社員が一体化しながら自由に働ける組織づくりを模索
会社が成長し、社員が増えるにつれ、新たな悩みに直面しました。それまでは個人の力で何とか回してきましたが、さらなる発展のためにはチームで成果を出すことが不可欠です。そのため、ベンチャーならではのスピードとフラットな組織を保ったまま、会社を有機的な組織として動かしていくにはどうすればいいのか、いつも考えていました。そんなとき出合ったのが、自律的な組織論の書籍として話題だった『ティール組織』(英治出版)でした。そして、書籍の帯の推薦文に佐宗さんの名前を見つけて、BIOTOPEに連絡してみようと思ったんです。
組織論よりもアイデンティティの揺らぎが原因
佐宗さんからは組織づくりの基本として、コアとなる考えを組織内で共有することが大事だと教わったのですが、当時のALEはそれをうまく言語化できずにいました。また、メディアへの露出が増えて、企業の評判は高まったものの、人工流れ星事業で注目されるのは、ほとんどがエンターテインメントの側面。本当にやりたいのは、科学の発展に貢献することなのに、エンタメ企業として見られていることに大きなフラストレーションを感じていました。エンターテインメントは目的ではなく、あくまでも手段。そのために、まずはミッション、ビジョン、バリューを見直すことにしたんです。
経営者の“妄想”を引き出すキャンバスづくり
最初のステップとして、佐宗さんからは社内外で自分の考えを自由に話せるブレーンをつくってみてはどうか、という提案がありました。そこで、ALEの一部の社員や株主、天文学者を相手に、今後100年のうちに、宇宙に進出した人類ができるかもしれない“妄想”を語る場を設けてもらいました。起業以来、日々の業務に追われて遠い未来を見つめる機会がなくなっていましたが、そういう時間をつくると、自分が現在どこにいるのかがわかります。このとき、宇宙を舞台にしたエンターテインメントの先に何があるのかを深く議論し、「好奇心」というキーワードにたどり着いたんです。人々の「好奇心」が宇宙への扉を開き、それがひいては人類に進化をもたらすという考えです。
未来へ向けたストーリーづくりと全社ワークショップ
佐宗さんには、そこで話し合った“妄想”を“過去–現在–未来”につながるストーリーに落とし込んでもらいました。それを社内で共有したうえで、全社員参加のワークショップを実施。このワークショップでは、一人ひとりが考えた人工流れ星の次のステージを、未来年表として可視化することで、全員が共有できる目的を議論しました。印象的だったのは「2030年には宇宙旅行が特別でなくなる」という話の流れから、「それなのに、流れ星とその次のエンタメでいいのか」という意見が出たこと。そこから、科学と社会をつなぐという考えをコアにもっていく方針が固まり、エンターテインメントだけをやりたいわけではないという想いが確信に変わりました。
企業のDNAをコピーライティングとして言葉で統合
その後、コピーライターを交えて全員でブラッシュアップしたミッションは、まさに私たちが言いたかったことをひと言で表したフレーズでした。最終的に「科学を社会につなぎ宇宙を文化圏にする」に決めたのですが、「科学と社会をつなぐ」だけだと、以前スローガンにしていた「サイエンスとビジネスの両立」とさほど変わらないと思うんです。でも、「宇宙を文化圏にする」という言葉が加わったことで、その先に目指す未来があることがわかります。2030年までのALEは、人工流れ星を通じて「宇宙を知る」事業のフェーズですが、それ以降は「宇宙を楽しむ・暮らす」事業の創出フェーズに入ります。どうやってそれを実現するかは現時点ではまだわかりませんが、言語化することで進むべき方向が明確になりました。この取り組みでは、同時にビジョン、バリューも決定しましたが、全体を通じて、言葉の力が組織をひとつにまとめ、経営の羅針盤になるということを改めて思い知らされました。