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CANON MARKETING JAPAN

イノベーションの社内波及 部署横断×デザイン思考研修の実施

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キヤノンマーケティングジャパンは、キヤノン製品とITソリューションを組み合わせた事業を展開し、新たな価値創出にも取り組むことで社会課題解決の領域を広げています。2024年1月には、事業環境や社会課題の変化を見据えてステークホルダーとの共創を進め、持続可能な社会を実現するためにパーパス「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」を策定しました。パーパス実現に向けてグループが一丸となって持続的成長を続けるため、多様な人材がいきいきと働く組織力の向上を目指し、人材育成にも注力しています。その中で社員が身につけるべきスキル・マインドの1つとして着目したのが「デザイン思考」です。2025年にも若手社員を対象にしたデザイン思考研修を実施。BIOTOPEが人事担当部門とR&B推進本部と連携し、研修プログラムの設計から実施まで支援しました。

ポイント

  1. 日常から始められるイノベーションフレームをインストール
  2. 社員を起点に変革を進めていく文化デザイン
  3. アイデア共創を促す共感コミュニケーション

語り手

  • 木暮次郎
    木暮次郎
    キヤノンマーケティングジャパン株式会社 R&B推進本部 イノベーション推進グループ グループマネージャー。2015年より現職。社内起業プログラムの運営や社会課題起点の事業開発に従事。新規事業創出の知見を活かし、全社横断でイノベーション人材の育成と挑戦する風土づくりを推進。VC出資や外部連携を通じて、社内アクセラレーションの仕組み強化にも取り組んでいる。
  • 村上英子
    村上英子
    キヤノンマーケティングジャパン株式会社 R&B推進本部 イノベーション推進グループ。2017年に社員の手挙げによる「社内起業プログラム」の第一期生として参加。その後、外部新規事業プログラムに約2年参加し、2019年現部署に異動。社内起業プログラムの事務局として新規事業創出を牽引する人材を育成し、全社のイノベーションカルチャーの醸成を目指す。部門研修等では研修ファシリテーターを務める。

AI時代に、いかに成長を持続させるか。より重要度を増す「常識を疑う視点」

木暮

当社は、旧社名が「キヤノン販売」だったことからも分かるように、もともとはキヤノン製品の販売や保守などを担当する企業でした。その一方で、東証プライム市場に親子上場しているという特殊性があり、キヤノンマーケティングジャパン(CMJ)として独立して事業を成長させていくことも求められています。現在では、グループ売上高約6,500億円(2024年12月期)の50%近くを占めるITソリューション事業を筆頭に多様な事業を展開し、近年は順調に業績を伸ばしています。とはいえ、急激な事業環境の変化の下、オーガニックな成長を続けるほか、新たな事業の柱を生み出すことも必要です。そこで、2024年1月には公表した「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」というパーパスのもと、CMJグループの持続的な成長をけん引して新規事業を創出し続ける専門組織「R&B推進本部」を設立しました。

R&BとはResearch&Business Developmentの略で、先端技術や優良な事業の種を探索する「Research」と、その事業化を推進する「Business Development」の二つの機能を連携させることで、未来志向による新たな価値創造に取り組んでいます。また、オープンイノベーションを推進する役割に加え、全社のイノベーション人材育成もミッションとしています。グループの持続的成長に対する人材面の課題意識は数年前からあり、今後を見据えた人材育成のあり方について人事部門とも検討を進めてきました。さらに昨今では生成AI技術の目覚ましい進展などを受け、例えば「課題発見」など人間にしかできない能力の重要性がより高まっていくだろうと考えるようになりました。常識を疑い、新しい視点でビジネスや業務と向き合える、そうした感度の高い人材の育成において、デザイン思考を共通言語化するということも、その一環として実施してきたものです。

デザイン思考の導入で、新規事業創出のみならず抜本的な業務改革にも期待

村上

デザイン思考研修を実施するにあたっては、複数のパートナー候補に相談させていただきました。BIOTOPEにお声がけした理由の1つは、私自身が以前から関心を持っていたからです。例えばBIOTOPEの代表である佐宗さんの著書のなかでも『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』は、個人のWill(ウィル)の大切さに改めて気付かされるきっかけになり、組織の中で人材育成に携わる身として非常に参考になりましたね。

各社からのご提案に対しフラットに検討させていただきましたが、研修内容がパッケージ化されていてカスタマイズが難しいケースが多かったり、決められた正解を見つけ出すような内容になっていたりして、私たちが思い描くものとのギャップがありました。その点、BIOTOPEからは、こちらの意向を汲んでいただきつつ研修内容を構築できるという柔軟性の高いご提案をいただき、それならば私たちが求めるスキルやマインドを伸ばせる研修になると感じ、選ばせていただきました。

木暮

この研修は、部署の垣根なく毎年実施しています。デザイン思考の導入にはイノベーションを推進するという目的がありますが、それは決して特定の部門だけの話ではないと考えているからです。そもそも「ゼロイチ(新事業創出)=イノベーション」といった図式で語られがちですが、日常の業務も含め、自分たちが日々取り組んでいることに対して改めて「本質的な課題は何か?他に良い方法はないのか?」と疑いの目を向け、新しい提案ができることもイノベーションであるはずです。

そこで研修では、より多様な部門に所属する社員が自身の業務課題に応用できるよう、プロトタイプの対象範囲を広げた設計としていただきました。当社の若手社員を見ていると、既存の課題に答えを見つけるという意味では優秀な人が多い一方で、「あなた自身はどうしたいのか?」という問いに対する答えを持っている人はまだまだ少ないという印象があります。あらゆる領域において課題発見の力を身につけ、今後の成長のために新事業の創出だけでなく抜本的な業務改革も必要だと考えたからこそ、若手を対象にした研修に取り入れました。

研修で伝授された、「深く掘る」「逆算する」思考法の重要性

村上

こうした大規模なデザイン思考研修はあまり例がないとのことで、BIOTOPEの皆さまにはご苦労をかけたかもしれませんが、趣向を凝らした内容にアレンジしていただきました。主な内容としては、試作品(プロトタイプ)に対して課題を見つけながらユーザーエクスペリエンスを構築していくプロトタイピングや、グループをつくり、メンバー同士で価値を共創するエクササイズ、またユーザーだけでなくその背後にある社会課題をも捉えるアプローチの紹介などがありました。

その中で印象に残っている場面を挙げるとすれば、受講者たちが2人1組になってあるワークに取り組んでいたときのことです。まず講師から「大都会に掲げられた看板に自由にメッセージを描いてみよう」という問いが投げかけられます。Aさんが決めたメッセージに対して、Bさんは「なぜそのメッセージにしたのか」と尋ね、その答えに対してさらに「なぜ」を重ねていく。そうしたやりとりを通じて、人の思考の表層だけでなく、深いところにある思いの源泉を探り当てていくというワークで、ユーザーが真に求めているものは何かを考えるときなどに役立つアプローチです。思いもよらないメッセージを出してくる受講者がいて新鮮に感じましたし、若手社員同士語り合いながらお互いの本音に触れられる良い機会にもなったようでした。

また別のワークでは、「デザイン思考なんて私には無理」と言っていた女性社員が、講師に促されながら徐々にデザイン思考に挑戦していく姿も見られました。彼女は「製品の価値をきちんと伝える」をテーマにワークの中で考案し、最終的には受講者のみんなに発表する数人のうちの1人に選ばれました。限られた時間の中でしたが、受講者の頭の中に新しい思考法がインストールされていく様子が見て取れて、とても良い機会になったと感じています。

木暮

研修の際、講師が近年普及したカーシェア事業について「所有することが当たり前だった高価な資産を『共有』して必要なときだけ『借りる』という、常識を覆した事業」と紹介していました。それがクルマで可能だったのなら、もっと高価な資産で同じようなサービスを事業化することができるのではないか。そういうふうに思考の幅を広げることの大切さを解説していただきました。

すでにある事業をありのままに受け入れるのではなく、そこから逆算してどういった業界構造になっているか?と分析的に思考する習慣をつけることはとても大事だと思います。研修から数カ月後のタイミングで振り返りの会を実施しましたが、その様子を見ていると、逆算して考えることができ始めているなと感じました。逆算する思考法を実際の業務でさっそく実践に活かしている人もいるようでしたし、そうした動きがより広がっていくといいなと考えています。

外部リソースとの連携推進は不可欠。今後のカギとなる、“ハブとなる”人材の育成

村上

今後も若手社員を対象に、同じような研修を実施していこうと思っています。若く、頭が柔らかいうちに、潜在的な課題を言語化する力や型にはまらない考え方を身につけてほしいと考えているからです。時代によって求められるスキルやマインドも変わっていくと思いますが、それに合わせた研修を都度設計していきたいと考えています。

木暮

これまで数年かけて、イノベーション人材の発掘・育成については、一定の成果が出たと考えています。今後は、イノベーション人材育成の方針を再定義する必要があると感じています。個人的には、これまでのように「イノベーション」という言葉でひとまとめにするのではなく、例えば「自分を知り、伝える」「多様な仲間をつくる」といった力を育てていくことも重要になっていくと考えています。言い換えれば、自分が何をやりたいのかを言語化でき、周囲を巻き込んでいく力です。

東証グロース市場の上場維持基準が2030年以降に引き上げられる見通しで、「上場5年後の時価総額100億円以上」という基準が盛り込まれるとされていますが、これを見据えて、今後IPOを狙うベンチャーは「どこと組むべきか」ということを重視し始めています。つまりM&Aや業務提携のプライオリティが高くなっていく。そうした中で、私たちCMJは選ばれる企業にならないといけません。そういう意味においても、コミュニケーション力に秀で、リソースをつなぐ「ハブ」のような働きができる人材の価値は高まっていくはずです。そういったことも含めて新たな人材像を再定義し、育成プランを改めて考えていきたいと思っています。

タネは残ったか?

木暮
社内起業プログラムの刷新や今回のデザイン思考研修を含む一連のフェーズを通じて、新規事業に挑戦したいという意思を表明する社員が増加傾向に転じました。そうした社内風土のさらなる広がりを期待したいと思います。
村上
研修後のアンケートで「新しい視点から自分の業務を見つめ直すきっかけになった」というコメントがありました。まずはそういう視点を持てたことが大きな収穫。日々のルーティンのように取り組んでいる業務であっても一度立ち止まって考えてみる習慣が定着すると、将来的には大きな変化につながっていくと考えています。
写真=林 孝典