VLAG YOKOHAMA

「叶えたい思い」を掘り起こすワークショッププログラムの開発

横浜駅西口エリアにそびえ立つ複合施設「THE YOKOHAMA FRONT」。その最上階にあるのが、事業共創施設「Vlag yokohama」です。共同で開発に当たった株式会社相鉄アーバンクリエイツと東急株式会社は同施設をより価値あるものにするために、不動産企画会社のUDS株式会社とタッグを組んで、新規会員向けのワークショッププログラム 「Vlag workshop」を用意することにしました。BIOTOPEはそのプログラムの開発に参画。受講者一人ひとりが、自己への省察と未来社会への考察を通して、My Vlag(自らのビジョンとミッションを統合した概念)を描き出すことを支援するプログラムを設計しました。また、確立したプログラム案をVlag yokohama事務局メンバーが参加者に向けてファシリテートできるようファシリテーションスキルのノウハウシェアも行い、円滑な実装・運営にも貢献しています。

Point

事業共創施設の会員同士の共創を促すためのワークショッププログラム「Vlag workshop」をデザイン

Vlag workshopは、会員が一個人として「叶えたい思い」にアクセスし、未来を考察しながら、My Vlagとしてまとめるプロセスを組み込む

運営メンバーへのノウハウシェアをはじめとして、円滑な実装・運営も支援

共創デザイン

サービスデザイン

理念デザイン

理念実装支援

課題

共創施設Vlag yokohamaのコンセプトと、会員への付加価値としてワークショッププログラムを提供するという方向性が決まっていたなか、そのプログラムの内容を、施設のコンセプトにリンクした形で開発する必要があった。

BIOTOPEがしたこと

3社にまたがるプロジェクトチーム内での討議を主導し、意見を取りまとめつつ初期的なプログラム案を作成。さらに、プロジェクトチームのメンバーを受講者に見立ててドライラン(予行演習)を実施。改善点をあぶり出しながらブラッシュアップを重ねた。

結果

Day1からDay3までの3ステップで構成された、受講者の内発的動機の可視化・言語化につながるVlag Workshopのプログラムを設計。また、ファシリテーターガイドラインを作成した。Vlag yokohamaは2024年6月に開業を迎え、Vlag Workshopの運用も開始している。

林一輝(左から)
Hayashi Ikki

株式会社相鉄アーバンクリエイツ 横浜駅西口事業部 マネージャー
前職で商業施設のリニューアル業務や多店舗展開企業への不動産コンサルティング業務等を経験後、2018年に株式会社相鉄アーバンクリエイツ中途入社。入社後、飲食店ビルの開発コンセプト企画や不動産の取得を経て、20年より横浜駅の再開発事業「THE YOKOHAMA FRONT」の事業推進を担当。24年7月より「Vlag yokohama」の運営業務をメインとしながら、横浜駅西口大改造構想にも携わる。

三浦宗晃
Miura Hiroaki

UDS株式会社 SDU(System Design Unit)ゼネラルマネージャー
大学卒業後、株式会社都市デザインシステム(現UDS)に入社。ベトナムオフィスに駐在し、リゾート開発のプロジェクトや、中国北京のこども向け職業体験施設など海外プロジェクトを担当。現在は社内チームとしてSDUを立ち上げ、コリビング、コワーキング、学生寮、ホテルなど多岐にわたる事業の「妄想」から「実装」までを行っている。近年の担当案件に、居住型教育施設「SHIMOKITA COLLEGE」や、NTT西日本のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」がある。「Vlag yokohama 」においても基本構想から開業までを一気通貫で支援。引き続き運営にも関わる。

武井駿
Takei Shun

東急株式会社 都・プロジェクト開発事業部 開発第二グループ 横浜都心担当 主査
横浜市出身。大学卒業後、東京急行電鉄株式会社(現在の東急株式会社)に入社。駅係員研修等を経て、東急田園都市線沿線での地権者等への不動産コンサルティング業務を経験。公民連携による持続可能なまちづくりを学ぶ都市経営プロフェッショナルスクールを修了。その後、横浜臨海部の不動産開発に従事し、横浜駅の再開発事業「THE YOKOHAMA FRONT」等の事業推進を担当し、産学公民連携組織「横浜未来機構」事務局も23年末まで兼務。都市課題解決と横浜の可能性を信じて「Vlag yokohama」を企画し、開業後も運営を担当。

「My Vlag」をクリアにすることが、共創の世界に踏み込む第一歩となる

2024年、横浜駅西口エリアに誕生した「THE YOKOHAMA FRONT」は、共同住宅や店舗、ホテル、サービスアパートメントなどで構成される複合施設です。その42階(最上階)に、会員制ワーキングラウンジやカフェ・バー、ホール・スタジオなどを備えた、事業共創を目的とした複合施設「Vlag yokohama」があります。その運営に当たっているのが、一帯の再開発を中心で担ってきた相鉄アーバンクリエイツと東急、さらにVlag yokohamaの企画・設計・運営を手掛けるUDSを加えた3社です。私たちはVlag yokohamaをどのような施設にするべきかについて検討を重ね、横浜内外の志ある人々が思いを持ち寄り、未来につながるきっかけが芽吹く共創施設とすることに決めました。施設名に採用したVlag(フラグ)という言葉には、自分の存在や意思を明確に示す「旗・旗印」と、未来の変化につながる「兆し」という2つの意味を込めています。(武井)

「共創」とは何かと考えると、単なる商談よりもイノベーティブなものだと思います。自分だけではできない何かを、誰かと一緒になって実現する。ただ、未知のものを追い求めるぶん予測不能性を伴いますし、いろんな人を巻き込んでいかなければいけない大変さもあります。それでも推進していくには、ビジョンやミッションを秘めた個人同士がぶつかり合ったり、つながったりする必要がある。つまり、共創施設はそういったVlagを持った人たちが集まる場でなくてはならないし、Vlagは共創を生むために不可欠なものだと考えています。(三浦)

Vlag yokohamaの会員に提供すべき付加価値に関して議論するなかで出てきたアイディアが、会員登録後のゲートウェイとしてのワークショップでした。この施設の世界観に入り込む最初の一歩としてワークショップが機能すると考えたんです。共創への意欲がある人が集う場になるとはいえ、どんなことを成し遂げたいのか、なぜそう考えるのか、思いの解像度は人それぞれで、必ずしも全員がクリアになっているわけではない。そうした人たちに、日常から少し離れたワークショップの場を通して「叶えたい思い=My Vlag」を語り直し、少しでも明確にしてもらうことは、次の一歩につながる重要なステップになると考えました。私たち運営側としては、それが明確になることで支援しやすくなる側面もあります。(林)

 

 

ワークショップのプログラム開発過程で生まれた、さまざまな副産物

ワークショップの具体的な内容を検討するに当たり、BIOTOPEに参画を依頼しました。一番の理由は、個人や組織のビジョンを引き出す方法論をお持ちなのではないかと考えたことです。依頼内容はワークショップのプログラムを一緒に考えてほしいというものでしたが、実際にはその議論を通してさまざまな副産物がありました。「Vlag yokohamaはビジョンだけでなくミッションの支援も行うべき施設だ」という気づきを得られたことは私にとって非常に大きな収穫でした。つくり出したい未来と現在の中間地点にあるのがVlagであり、それは未来に向けて自分が掲げる旗印のようなものであるとも言えるわけです。結果的に、この気づきを得たことで施設自体のコンセプトがよりシャープになったと感じています。(三浦)

BIOTOPEには、準備も含めたプロジェクトマネジメントの巧みさにシンプルに感動させられました。チームビルディングにもプラスの効果があったと感じています。それまではミーティングで発言する人が固定化する傾向がありましたが、BIOTOPEが媒介役となることで、各メンバーの発言が促され、「ああ、こんなことをこの人は考えていたのか」とそれぞれが考えていることが分かり、関係性が深まりました。(林)

いきなりワークショップの内容を1つずつ固めていくのではなく、施設のユーザー視点に立ち返って、ワークショップの前後にまたがる大きなジャーニーを一旦開いて考えるところから始めるというBIOTOPEの手法はとても印象的でした。フローを壁一面にユーザージャーニーマップを貼り出して全体像を把握したうえで、これを実現するにはどんな内容であるべきなのかとバックキャスト的に考える。今回のプロジェクトの中でも非常に重要なプロセスでした。多様な情報が複雑に入り交じっていたにもかかわらず、整理の仕方が本当に上手で、視覚的にすっと理解することができました。(武井)

 

ありのままの「個人」が隣り合うからこそ、予期せぬ共創が生まれる

ワークショップの内容を固めていくうえで私が大事にしたのは、ドライランに参加しながら自分がどう感じたかをちゃんと認識に留めておくことです。当然ながら「つくって終わり」ではなく、実際にプログラムを使う参加者に価値を提供できるようなものにならないと意味がありません。例えば、ワークショップのような場では自分の考えを述べる場面が必ずあり、どうしても「うまいことを言おうとする自分」がいる。でも私は、ほかの人たちほどきれいな言葉で自分の思いを言い表すことが得意ではありません。そういうときの感情を放っておかずに、ワークショップの内容を検討する際の材料の一つに加えてもらうよう努めました。実際、プログラムの中に「モヤモヤはモヤモヤのままでOK」「背伸びして良いことを言わないでOK」というルールを追加することになりました。自分と同じような参加者が救われるようになるといいなと思っています。(武井)

 

 

このワークショップは法人向けなのか、個人向けなのかという議論がありました。私は、確かに法人が会員になるケースもあるものの、基本的には個人にフォーカスするべきだという思いを強く持っていました。そちらのほうが圧倒的に楽しいものになると思っていたからです。(林)

私も同感です。共創の実現には、互いに共感し合った個人と個人が一肌脱ぎ合うようなところが欠かせません。「○○会社の△△担当として来ています」と言われるより、自分を主語にして語ってくれる人のほうがグイっと関わり合いたい気持ちが芽生えやすい。個人にはいろんな側面があって、いわば多面的な存在です。そういうものが2つ隣り合ったとき、どこかの辺や面がクロスする可能性が高いですし、思いがけず交わった部分から何か新しいものが生まれる可能性も高いのではないかと思います。(三浦)

 

 

横浜を「消費する街」から「生み出す街」へ。その兆しを生む人を育んでいきたい

Vlag Workshopは簡潔に言うと、「Day1:自分らしさに立ち返る」、「Day2:変化する社会・世界の流れに浸る」、「Day3:内発的動機にアクセスしMy Vlag仮説をデザインする」という構成にひとまず落ち着きました。Day3の最後には、各参加者にMay Vlagステートメントを作成してもらうことになります。実際の運用が始まってまもない段階ですが、将来的には、このワークショップで導き出した「My Vlag」を、Vlag yokohamaで育み、その結果いろんなことにチャレンジするマインドの人が増えてくれたらうれしいですね。個人的な感覚ですが、今の横浜は「消費する街」という色彩が強く、何かを「創造する」機能が乏しいような気がしています。Vlag yokohamaの存在をもっと知ってもらい、新しいものを創造するマインドの人が増え、その人たちが作品なりサービスなりを横浜の街で展開し始めれば、受け手である消費者にも波及するでしょうし、クリエイティブな空気が街全体にしみ出すように広がっていく。そんな未来図を思い描いています。(林)

 

 

都市を構成しているのは人である以上、面白い人たちがいればいるほど、その都市も面白い。横浜は「日本最大のローカル都市」という言い方ができると思います。もちろん東京と比較するとかなわないところもたくさんありますが、横浜にしかないものも多いはずです。特に、職住近接が実現しやすく「暮らしに紐づいたチャレンジができる場所」であるという点には大きな価値があると思います。それこそが東京ではなく横浜で共創施設を営む意味だと思っています。ユニークな街づくりを、ディベロッパーや鉄道会社とはまた異なるアプローチで、尖った個人が起点となって担っていく。そういう変化の兆しを生む人を送り出していくようなVlag yokohamaでありたいですね。(武井)

Vlag Workshopが持つ社会的な意義や重要度は、設計段階よりも今のほうが格段に増しているように思えます。ソフトバンクの孫正義さんが、これからのAI時代を展望して「のび太の時代が来る」という表現をされているそうです。生成AIが発達すると、たいていの困りごとに対して解決策を提示してくれるようになる。そこで大事になるのは、どれだけ自分の願望を明確に持てているかということなんです。わがままで、困ってばかりいる、それこそのび太のような人こそが、AIの力を最大限に活用して活躍できる時代が来るんじゃないか、というわけです。この話は、一人ひとりの個人がVlagを掲げられるかどうかということと深く関わっていますよね。AI技術の進展と重ねて考えると、Vlag yokohamaが秘める可能性はまだまだ膨らんでいく余地があると感じています。(三浦)

 

タネは残ったか?

ドライランなどを通して、「自分がどうなりたいのか」ということをあらためて考えさせられました。そのことが私自身にとっての大きな変化のタネなのだと思います。どうしても日々の仕事に忙殺されがちですが、5~10年くらい先の将来を見据えて、自分がどうありたいかを考えることの大切さに気づくと同時に、それを言語化する努力をするようになりました。(林)
ワークショップの内容を考えたり、Vlag yokohamaでお会いする人と会話を交わしたりしてきたなかで、「私は今まで常に自分を主語にする生き方をしてこなかったのかもしれない」と気づきました。このプロジェクトを通じて、もっと自分の欲望や願望をしっかりと言葉にしようと思い直すきっかけを得られました。(武井)
今回の取り組みで、BIOTOPEさんのハイレベルなワークショップ設計とファシリテーションを体感できたことは、Vlag yokohamaとして貴重な財産になりました。今後の参照点になると思っています。また、BIOTOPEさんやチームメンバーとの対話を通じてVlag yokohamaのヴィジョンとミッションについて解像度を上げて言語化していくことができました。その過程も良いチームビルディングになったと思います。ありがとうございました。(三浦)
文中写真=町田康祐(BIOTOPE)

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