CHOUSHIMARU

100年企業に向けての羅針盤となる、未来ビジョンと経営価値創造モデルの策定

千葉・東京などに90店舗を展開する寿司チェーン「銚子丸」。創業者のリーダーシップに牽引されて成長を果たしましたが、令和の時代を迎え、経営スタイルの見直しを迫られるようになってきました。過去から育まれてきた目に見えない固有の価値、未来においても守るべき理念と価値創造モデルを明確にし、かつ現代の若者世代にも親しみやすいカタチに表現し直す。そんなステップを経て、銚子丸は、徹底した効率化という業界の常識の逆を行く道を選びました。「地域密着」や「人情と活気」といったキーワードに表れているように、人間味ある固有の店舗体験を売る姿勢を鮮明にした銚子丸。BIOTOPEは、企業理念と経営ビジョンの策定から浸透の仕組みづくりに至る一連のプロセスを支援しました。

Point

100年企業に向けて銚子丸が持つ固有の経営価値・強みを探索し、価値創造モデルを策定

銚子丸が独自性を発揮することで、グローバルに成長するためのビジョンを可視化

新MVVを元に従業員が店舗価値を向上させるための理念冊子「Compass Book」を制作

理念経営

ビジョンデザイン

歴史探索

経営価値創造モデル

課題

創業より48年が経ち、新しい時代に即した理念経営へのアップデートを全社的に図ることになった。銚子丸の「変わってはいけない価値」と「固有の強み」を再言語化したうえで、劇団員(従業員)が腹落ちするMVVならびに日々の行動指針を策定することに取り組んだ。

BIOTOPEがしたこと

歴史探索(劇団員インタビュー)に始まり、視点を未来に向けたディスカッションおよびビジョン策定をサポート。振り子モデルや価値循環図などのフレームワークを適宜示し、意見の集約や本質的価値の可視化を促すファシリテーションとMVV浸透のため冊子を制作した。

結果

銚子丸は自らの存在価値として「地域に人情と活気をもたらすおもてなしの舞台を創る」を理念に掲げ、ビジョンマップと経営価値モデルを策定した。劇団員にはCompass Bookが配布され、従業員とともに高付加価値業態に変革する羅針盤として活用される予定。

堀地元(中央右)
Horichi Hajime

株式会社銚子丸 専務取締役
1992年4月当社入社。長く営業部門に携わり新しい働き方への挑戦、福利厚生の充実、DX推進、海外プロジェクトの推進など豊富な経験と実績を積み上げ当社経営を担っている。

佐々木秀信(中央左)
Sasaki Hidenobu

株式会社銚子丸 人財戦略本部 執行役員 本部長
2000年9月当社入社。長く営業部長として営業部門を最前線で担い、また商品部長として商品企画、製造物流からの収益性向上などを担当。現在は採用・人財育成の強化に着手している。

阿部豊一(右端)
Abe Toyokazu

株式会社銚子丸 営業本部 執行役員 本部長 
2004年9月当社入社。営業企画部長、営業部長を歴任し常に顧客視点を持ち続け営業部門の課題と解決に挑んでいる。今後は営業部の更なる強化を図るとともに顧客体験の価値向上に挑む。

三浦正嗣(左端)
Miura Masashi

株式会社銚子丸 営業部 副部長
1998年12月当社入社。営業部門を経て人事全般の業務を担い人財育成の仕組み化、研修/マニュアル類の整備など教育部門を担当。現在はお客様創造課でマーケティング、広告、企画、販売促進の強化を図っている。

銚子丸がもつ創業以来の「価値」と「強み」を歴史探索で浮き彫りに

今回のプロジェクトのきっかけとなったのは、BIOTOPE代表の佐宗邦威さんが書かれた『理念経営2.0』という本に出会ったことです。弊社は創業48年が経ち、働く人たちの世代が変わってきたなかで、経営のあり方も見直さなくてはならないと考えていたところでした。その本には、若い世代が共感し、自分ごと化して仕事に向き合えるような理念を掲げることの重要性について書かれていますが、これこそが経営の新たなメインストリームになるのだろうと強く感じ、BIOTOPEに相談させていただくことにしました。担当していただいた金安さんと対話を交わすなかで、MVVを単なる言葉遊び、コピーライティングで終わらせてはいけない。経営の本質と強固に結びついていることが何より重要だ」という言葉をいただいたことが印象に残っています(堀地)。

まずは役員や本部社員、寿司職人、女将さん、パートの方々などにインタビューを行い、歴史探索を通して弊社の「変えてはいけない固有の価値」と「強み」を明らかにすることからスタートしました。ちょうど同じ時期に創業者でもある会長がご逝去されて、プロジェクトに参加する経営陣や劇団員(従業員)がこれからに対する危機感を抱いているなかでのインタビューとなりました。実をいうと私自身にはもやもやした思いがあったんです。変えるべきものと変えるべきでないものが明確に整理できておらず、他のみんながどのように考えているかも分からなかったからです。でも、こうして腹を割って話せる機会をもてたことで、みんなの根底にある思いは同じなんだということに気づくことができて気持ちが晴れました。創業以来、核となってきた理念は変えるべきでない。ただ表現の仕方を変えていけばいいという方向性もだんだん見えてきました(阿部)。

 

経営を駆動するエネルギーは「求心力」から「遠心力」へ

弊社には「7対3を意識する」という教えがあります。何ごとも一面的に捉えるべきではないという考え方で、例えば美味しいお寿司を提供することが「3」、残りの「7」は理念を売りなさい、といわれてきました。今回30名強のインタビューを行うなかでは、その「7」に当たる理念の部分、来店する楽しみをお客様に提供するんだということを、社員だけではなくパートさんまでしっかりと理解してくれていることが分かりました。創業以来の理念がここまで浸透している。それも弊社の強みの一つなのだと感じました(佐々木)。

歴史探索の結果を踏まえて行なった、未来の銚子丸のあり方を議論するワークショップでは、劇団員一人ひとりが自律的に行動する分散型の組織を志向することで強い経営が実現する、ということを再認識しました。BIOTOPEから銚子丸の理念経営をどのように経営価値に変えていくかを示した「銚子丸の振り子運動モデル」をご提示いただき、強く共感したのですが、まさに求心力の経営から遠心力の経営への転換です。強力なリーダーシップに依存するのではなく、個々の自発的な行動を通して、進むべき道をみんなで決めていく。そういう文化を築いていけたらと考えています(堀地)。

その遠心力を生み出す重りとなっているのが、弊社の場合は「人財資本」と「ブランド資本」の2つです。劇団員がいきいきと創造的に仕事に向き合えるような企業であること(人財資本)、そして私たちはただお寿司を提供するだけでなく、創業以来の理念をお客様にお届けするということ(ブランド資本)。これら2つはどちらも欠けてはならないし、互いに連動しながら弊社の独自性を形づくっています。振り子の図はそれが一目で分かるように表現されており、非常に説得力があります(阿部)。

 

求心力の経営から遠心力の経営へ転換することを示した「振り子運動モデル」。

 

業界の常識に逆行。人間味のある接客で「ここにしかない」店舗体験を売る

未来ビジョンを描くなかで、他の回転寿司チェーンとは対照的な銚子丸にしか発揮できない価値創造モデルを目指していくことが明確になりました。標準化や省人化、あるいは大量出店により効率を追求し、価格競争に勝っていこうとするのが業界の常識となっていますが、私たちはその逆で、例えば女将さん制度やマグロの解体ショーなどのパフォーマンスを通して、お客様にここでしか味わえない店舗体験を売っていく。そして樹木が年輪を重ねるようにお客様や地域と強固な信頼関係を築き、日本文化を象徴するブランドとして成長していく。そういった独自の路線を進んでいきます。お店に食事に行ったとき、接客ロボットや無人レジの対応で完結してしまうのは、やっぱり寂しいじゃないですか。私たちは飲食店として、お客様に活力を与えられる存在であり続けたいと思っています(堀地)。

そういう方向に舵を切ったことで、人財資本の重要性がおのずと高まってきました。特に、人財をどう育成するのかという課題に対して、これまで以上に力を注がねばなりません。接客のプロである女性スタッフを配置する女将さん制度は続けていくべきだと考えていますし、職人についていえば、技術力はもちろんのこと、双方向にコミュニケーションをとれる能力も不可欠になります。お客様が何を求めているかを察知して提供できるような気配りができるといいですよね。私ももともとは職人で、創業者に育てていただいた身ですから、そこは絶対に妥協したくないんです。人をどれだけ育てられるかで、会社の価値も決まってくる。銚子丸が人財育成企業としても成長できるように研修のあり方などを見直していきたいと考えています(佐々木)。

銚子丸のミッションを起点に人財資本とブランド資本を育みグローバルな成長を果たす「価値創造モデル」。

 

「地域に人情と活気をもたらすおもてなしの舞台」として未来へと続いていく

経営陣を巻き込んだワークショップを通じてブランドの価値を整理したうえで、銚子丸がこれからも存在し続ける理由を言語化することに取り組みました。そして紡がれたミッションが「地域に人情と活気をもたらすおもてなしの舞台を創る」というものです。その言葉に行き着いたのは過去の教訓も関係しているのではないか、と個人的には思っています。2000~2010年頃のことですが、弊社にも、大量出店・大量仕入れの薄利多売モデルで急成長を果たした時期がありました。でも今振り返ってみると、いつからかお客様が求めているものを見落とすようになっていたように思います。今回のプロジェクトでは、あらためて弊社の原点に立ち返り、創業者が抱いていた地域密着への思いを全員で再確認したことで、この端的な言葉が導き出されました。それぞれが頭の中では分かっていたと思いますが、明確にアウトプットする機会がずっとなかったんです。BIOTOPEからさまざまな概念図などをご提示いただいたおかげで、はっきりと言葉にすることができました(阿部)。

普通の寿司店であれば「安くて美味しいお寿司を届ける」のようなミッションが出来上がるのだろうと思いますが、そういうものにならないところが銚子丸らしさですね。特に「人情」という言葉がキーだと感じています。私は社内に浸透させる役割も担っているのですが、人情とは何かを説明するのは意外と難しい。ただ考えてみると、弊社のエース級の女将さんは、常連さんが来ればすぐに気づいてご挨拶に伺うのはもちろんのこと、足が不自由なおばあさんがいらっしゃれば肩を貸してご案内したり、小さい子どもにはしゃがんで声をかけたりということを自然とやっています。そういうものが人情の一つの形なのでしょう。「地域に人情と活気をもたらすおもてなしの舞台を創る」という言葉を見たときに、劇団員一人ひとりがそういう光景をパッと思い浮かべられるようになり、また誰かから指示されるまでもなく行動に移せるようになるといいなと思っています(三浦)。

 

銚子丸のMVVが実現した理想の未来像を描いたビジョンマップ。全店舗に配布し接客の現場でも従業員が理念体現のアクションを構想できる共通言語となっている。

 

現在地と未来の方向性を指し示す「Compass Book」が完成。今後は浸透のフェーズへ

今回のプロジェクトでは、銚子丸が大切にしていくべき価値や行動指針などを記載したCompass Bookを制作しました。ポケットに入れて常に携帯できるくらいのコンパクトな冊子です。昔は、創業者が銚子丸のブランド価値について直接教えてくれましたし、店舗にやって来てはそれがきちんと実践されているかをご自身の目で確認していました。今後はCompass Bookが、そのような役割を担うといえます。ここに書かれていることを読み直し、自分の仕事はどんな価値を生んでいるのか、地域にどう貢献できているのか、折に触れて確認する。また、これから歩みだそうとしている方向性はビジョンとずれていないかを見定める。そんなふうに文字通りのコンパスとして、劇団員の皆さんに活用してほしいと考えています(佐々木)。

お店には、ベテランの店長、1週間前に入ったばかりの社員、パートさんなど、いろんな階層の人たちが一緒に働いています。そういう立場の違う人たちの心を融合させ一つにするうえでも、このCompass Bookは役に立つと思います。刷り上がったばかりなのですが、ある店舗では店長が朝礼のときにCompass Bookを取り出し、自分なりの解釈をスタッフのみんなに伝えたという話もさっそく聞こえてきています。並行して進めているMV(ミュージックビデオ)やイメージソングなどの施策も組み合わせながら、銚子丸の理念をじっくりと社内に根づかせていけたらと考えています(三浦)。

 

タネは残ったか?

ある店舗で、近隣中学校の美術部員が描いた絵をお店に飾る取り組みが行われました。お客様からもとても好評だったようです。地域密着が一歩進んだ実感がありますね。かねてから私たちは、その地域に根差し、親子3代で働けるような100年企業でありたいと考えてきました。本プロジェクトで整理し直した銚子丸の価値を軸に据え、未来に向けて歩んでいきたいと思います(堀地)。
ひざを突き合わせて議論し合えたこと、そしてCompass Bookも含め、今の時代に合った成果物を残せたこと。これらは財産として未来につながっていくと思います。これからは、お客様にも、働く人たちにも、選ばれる企業になることが大事。そのためには時代に合わせて変化していかなければなりません。その第一歩を踏み出せたのが、このプロジェクトだったのではないかと思います(阿部)。
プロジェクトに参加した全員が「自分たちはこれからの銚子丸を変えていく一人なんだ」という自覚を持ったのではないでしょうか。そういう思いを社内全体に浸透させ、また若い世代に銚子丸ブランドをしっかりと体現してもらえるように育成・教育することが私の務め。本プロジェクトは、次の50年に向けての新たな出発点になったと感じています(佐々木)。
Compass Bookがコミュニケーションの起点になっていくといいなと思います。「うちの店舗ではこんなふうに体現したよ」「お客様にすごく喜んでもらえた!」といった形で事例が出てくれば、新しいおもてなしや商品が生み出されるきっかけにもなるはずです。トップダウンだけでなく、現場の声も拾い上げながら双方向に浸透が進んでいくのが望ましい形なのではないかと考えています(三浦)。

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