ASAHI SOFT DRINKS CO., LTD.

ブランド価値・パーパスを社会に浸透させる新領域事業開発プロジェクト「三ツ矢 青空たすき」に伴走

誕生から140年という長い歴史を持つ、三ツ矢サイダー。そのブランド価値・パーパスを社会に浸透させるためにアサヒ飲料が取り組み始めたのが「三ツ矢 青空たすき」です。地域(福岡県糸島市)で自然に寄り添った暮らしを送る人々との共創関係を築きながら、社会課題の解決にもつながる、飲料の枠を越えた新領域事業として三ツ矢サイダーブランドの社会浸透活動を展開しています。大手飲料メーカーでありながら地域資源(文化自然)と都市生活者をつなぐ「体験プログラム」を提供する異色の新規事業の実現に向け、BIOTOPEは長期間にわたって伴走・支援してきました。

Point

三ツ矢サイダーブランドが140年間で創り出した無形のブランド価値を探索

ブランドパーパスを社会浸透させる新領域事業の開発

社内外のブランド共感を醸成する五感体験型ブランディング

パーパスブランディング

新領域ビジネスデザイン

ビジョンデザイン

歴史探索

課題

140年の歴史を持つ「三ツ矢サイダー」ブランドが培ってきた歴史・世界観・無形価値を、今の消費者に深く浸透させ、ファンを創造し、次の100年に向けてブランド価値を向上させる施策を、既存のマーケティングとは異なるアプローチから検討した。

BIOTOPEがしたこと

ブランドの歴史を紐解き、未来に残すべきエッセンスを事業に落とし込む一連の過程に伴走。本業である飲料とはまったく異なる領域に踏み込んだプロジェクトチームに寄り添い、課題抽出や議論の促進など、長期的かつ広範に支援を行った。

結果

日本人に親しまれてきた三ツ矢サイダーは、日本古来の自然の豊かさや人とのつながりとの親和性が高いことに着目。消費者一人ひとりの社会貢献活動へのきっかけとなり得る「参加型アプローチ」を核とした事業を創出し、ローンチまで導いた。

宮本史帆(左)
Miyamoto Fumiho

アサヒ飲料株式会社 マーケティング本部 ブランド活用推進グループ プロデューサー
1999年カルピス(株)に入社。人事で採用担当等、広報で社内広報、社外広報、社会貢献活動等を経験。アサヒグループ入り後は調達部門を経てマーケティング部門へ。リサーチや人材育成、新価値創造公募プロジェクト等を担当。21年9月より現職。「三ツ矢青空たすき」の企画検討時から携わり、現在同事業の統括担当。社会課題解決×ブランド価値を体現する共創事業の構築に挑む。

真鍋礼子(右)
Manabe Reiko

アサヒ飲料株式会社 マーケティング本部 ブランド活用推進グループ グループリーダー
1997年にカルピス(株)に入社、市場分析や消費者調査担当を経て、マーケティング部門へ。カルピス、カルピスソーダ、カルピスサワー、ギフトなどの商品開発を担当。アサヒグループ入り後はグループの社外広報を経験し、22年4月より現職。現在は、三ツ矢やカルピスなどアサヒ飲料ブランドのライセンス事業や共創事業を統括。飲料領域以外からのブランド価値向上に挑戦している。

持続可能な暮らしを体験できるプログラムを提供する「三ツ矢 青空たすき」

「三ツ矢 青空たすき」とは、日本の自然の豊かさや人とのつながりをあらためて感じられるような体験プログラムを提供する新規事業で、2023年夏にスタートしました。新規事業といっても、新たなマネタイズの柱をつくることを企図したものというより、ESGやSDGsを意識した、社会性のある「三ツ矢サイダー」のブランディング活動という性質が強い事業です。BIOTOPEに伴走していただきつつブランドの歴史をたどり直した結果、三ツ矢サイダーは今では失われかけている日本の原風景の記憶と強く結びついていることを再認識しました。例えば子どものころの夏休み、遊びまわって汗だくになったあとに飲んだ三ツ矢サイダーの味。おじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行って、田舎の家の縁側に座って飲んだ三ツ矢サイダーの味。その格別のおいしさは、豊かな自然や、ぬくもりのある人と人との関係性とともに、多くの日本人の心に根づいています。そうしたブランドの無形資産を活用する方向で検討を進め、行き着いたのが「三ツ矢 青空たすき」の事業でした(宮本)。

三ツ矢ブランドの無形資産を未来につないでいくには、自然を守る環境活動を弊社のCSR活動として行うことも可能です。ただそれ以上に、消費者の方たちに実際に森や海に入る体験をしてもらい、自然の豊かさや自然と共生する文化の大切さを感じてもらうことこそが次の具体的な行動につながると考え、「体験」にフォーカスした事業化に踏み切りました。第一歩として福岡県糸島市を拠点に定め、地元の方々に語り部としてご協力いただきながら、さまざまな体験プログラムをご用意しています。また、日本全国どこからでも参加して自然や文化の豊かさを実感できるオンライン体験プログラムなども提供しています(真鍋)。

 

「三ツ矢 青空たすき」の特設サイト。https://mitsuya-aozoratasuki.asahiinryo.co.jp/

 

社会課題解決を組み合わせた、ブランディングの新たなアプローチ

飲料ブランドとして、もちろんこれまでも消費者との接点を増やす取り組みを弊社は行なってきましたが、それに加えて社会的な意義を強化したブランディングのアプローチもしたいと考えていました。三ツ矢ブランドが140年にわたり紡いできた無形資産と、社会課題の解決を組み合わせて事業化できないかという思いが、この「三ツ矢 青空たすき」につながりました。社会課題の解決となると短期的に実現するのは難しいので、持続可能な取り組みとするべく、飲料の枠を越えて新領域事業として挑戦しました(真鍋)。

飲料以外の領域で新規事業を開発する難しさはありましたね。経営層からは、アサヒ飲料がその事業に取り組むべき理由は何か、なぜ三ツ矢サイダーブランドなのか、どんな成果が期待できるのかなど、さまざまな問いを投げかけられました。ただ私たちには、この事業は社会課題の解決につながるだけでなく、アサヒ飲料全社の未来にとってもプラスになるという確信がありました。「三ツ矢 青空たすき」を展開することで、三ツ矢サイダーを飲み続け、この活動を応援することで世の中を良くするんだということがより可視化され、それによって弊社で働いている人たちの間にもワクワクした感じが広がっていく。それが商品のつくり方や働き方にも反映されるようになったら素晴らしいな、と考えています(宮本)。

 

異色の新規事業は社内でどう受け入れられたのか

今は、「社会に貢献したい」「未来に何かを残さなきゃ」という意識が個人レベルでも広がっている時代。だからこそ「三ツ矢 青空たすき」という提案に対して、弊社の役員や社員も一定の理解を示してくれたと感じています。これまでは、何かをしたい思いはありつつも、それをアサヒ飲料らしく、三ツ矢サイダーブランドらしくやるにはどうしたらいいのかがあまりクリアに描けてはいませんでしたが、「三ツ矢 青空たすき」は一つの解になり得る。三ツ矢サイダーは社員みんなが大事にしてきたブランドでもありますので、単純な社会貢献活動では起こり得ないような共感や応援をしてもらえていると感じます(真鍋)。

ブランドパーパスをつくることは、社内の人たちのそのブランドに対する誇りを醸成し、結果的にインナーブランディングにも資すると考えています。若い社員やこれから入ってくる人たちに、「三ツ矢 青空たすき」の活動を通して「三ツ矢サイダーはこういうブランドなんだ」と理解してもらうことはとても大きな力になるはずです。実際、三ツ矢ブランドチームのメンバーに糸島での体験プログラムに参加してもらったところ、「自然に触れあったあとに飲むサイダーがいつも以上においしく感じた」「このブランドに携われて幸せだ」と言ってくれました。この活動が根づき、広く認知されるまで何年もかかるかもしれませんが、地道な活動を通してブランドの価値、ひいては企業価値の向上につなげていけたらという思いです(宮本)。

 

「同品質・大量生産」の世界の外に出るということ

活動が始まってまだ1年ですが、いろいろな気づきがありました。例えば、これまでは物事を二項対立で捉えすぎていたように思います。都市と地方であったり、大企業と個人事業主であったり……。でも「三ツ矢 青空たすき」はそれらを溶け込ませ、混ぜ合わせるような事業だといえますよね。また、「受け入れるしかないこともあるんだ」とあらためて気づかされました。弊社は飲料メーカーとして、どんな季節や天候であっても、全国どこへでも同じ品質のものを生産し供給することに努めているわけですが、「三ツ矢 青空たすき」はまったくの逆。思い通りにならない自然を受け入れつつ、その中で得られる恵みに感謝したり、楽しさを見いだしたりします。そうした日本人の昔からの生き方を一人ひとりがもう一度見つめ直すだけでも、世の中は少しずつ変わっていくのではないかと思っています(宮本)。

例えば「自然の素材でつくられたアイテムを家の中に置いてみてはどうでしょう」と、新しいライフスタイルを提案するような試み。これまでは消費者のそうした側面にアプローチしてこなかったなというのも、マーケティング的な観点からの一つの発見でした。飲料事業に直結する領域にとどまらず、新しい発想へと広げていくことができたらいいなと思います(真鍋)。

 

糸島で語り部が自然との調和を図りながら一つひとつ育て、乾燥させたひょうたん。古来から伝わる縁起物を思い思いにデコレーションして日常に自然のぬくもりを届ける。

 

地域との共創は、人としての共感がベース

地域でサステナブルな暮らしを体現されている方たちに語り部としてご協力いただくことで「三ツ矢 青空たすき」は成立しています。ひょうたん作家さんはプログラムで使うために通常より小ぶりなひょうたんを育てたり、農家さんは体験を提供するために作付計画を調節したり、そんなことまでやってくださっています。私たちのような東京の企業がつくった枠組みに対して力を貸してくださっていることには感謝しかありません。共創していくうえで意識したのは、私自身が一人の生活者として、語り部の方たちの生き方や考え方に共感すること、その共感をベースにして手を組ませていただくことです。「三ツ矢 青空たすき」はまだ始まったばかりで、うまくいかないこともありますが、一緒に良くしていこうという気持ちで通じ合えていると感じています(宮本)。

共創のパートナーである地域の方から思いがけない商品提案をいただいたり、三ツ矢サイダーの自販機を置きたいとまで言ってくれる人が現れたりと、関係性はどんどん深まっていますね。また社内的にも、三ツ矢サイダーのパーパスを体験型プログラムを通して没入できることで理解が深まっており、ブランドを守る活動は体験プログラムと親和性を持っているとあらためて実感しています。大切なのは、語り部さん、パートナー企業さんも含めて常に議論し合い、PDCAサイクルを回し続けていくこと。知見のない分野で悩みながらも一から自分たちの手でつくりあげていくことにこの事業の意義と醍醐味があるのだと思っています(真鍋)。

 

感情で通じ合えた心地よさ

BIOTOPEには新領域事業を実現するまでファシリテーションスタイルで伴走していただきました。ビジネスデザインからブランドデザイン、MVV策定などの事業戦略や組織醸成、三ツ矢サイダーブランドの価値を社会に発信する事業コンセプト出しや最先端なトレンドの共有まで、引き出すだけではなく、ときにチームを引っ張ってくれるような関わり方も印象的でした。私たちと同じ立場で、ときには糸島まで足を運んで喜怒哀楽も共有しながら事業を進めていただけたのが、とても嬉しかったですね。印象に残っていることの一つが会議です。アジェンダを事前につくり込み過ぎず、そのときどきの状況に応じて議論が深まるようなファシリテーションをしていただきました。そういう会議の進め方だからこそ、私たちの思いが引き出され、5年後10年後にどうありたいか、ともすればお酒の場でもないと語りづらいようなことも普段の会議で話し合えました。特に「三ツ矢 青空たすき」の事業は、プロジェクトチームのメンバーそれぞれの思いや感情を込めることが大きな意味を持つので、とてもふさわしい議論のあり方だと感じました(宮本)。

他社の事例も含め、さまざまな知見をご提供いただいたのはもちろん、どこから手をつければよいか分からない私たちを引っ張っていただきました。ただ、勝手に走っていくのではなく、私たち自身が考えるべきことに対しては、しっかりと向き合う機会を設けてくれました。一般的なコンサルティング会社の概念を覆されたような感じがします。山あり谷ありの長期戦となっていくなか、常に愛情をもって支え続けていただきました(真鍋)。

タネは残ったか?

「三ツ矢 青空たすき」のプログラムに参加した日本全国のファンが集うコミュニティをつくりたいと考えています。そこでの共感や価値観の共有が、また新たな展開につながっていく予感がするんです。飲料メーカーとして普段の生活に根差した取り組みという部分は大事にしつつ、体験プログラム以外の領域に進むこともあり得るし、地域もご参加いただくお客様も、まだまだボーダーレスに広がっていく可能性を秘めた事業だと思っています。(真鍋)。
今後、この事業がいろいろなことを実験するプラットフォームになることを夢見ています。既存事業の中ではやりづらい挑戦もここでなら思い切ってできる。また弊社だけでなく、語り部さんや生活者の方たちも含めて、「三ツ矢 青空たすき」が新しいことにチャレンジできる実験場となれば、新たな出会いが生まれ、つながりを創り、思いもよらない場所にたどり着けるような気がします。これからどんなふうに展開していくのか、私たち自身すごく楽しみですね(宮本)。

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