収益構造の変換を目指してJYDを発足
JFAのマーケティング部では、収益の柱となるパートナーシップ、テレビの放映権、マーチャンダイジングおよびライセンシービジネスなど、協会の事業価値を向上させることに取り組んでいます。しかし、現状の収益の約9割は日本代表関連で、ここに過度に依存する構造から早く脱却しなければなりません。そこで、2014年にJYDというマーケティング施策を検討し始めました。ユース年代のみならず、大学、シニア、女子、フットサル、ビーチサッカーなどの大会事業を包括したマーケティングの枠組みがJYDであり、日本サッカーの育成・普及を担う事業や大会の協賛に付随する権利が、このプログラムに含まれています。
縦割り組織に刺激を与えるアプローチ
日本代表に次ぐ新たな収益の柱の構築のためにJYDが発足したこともあり、これまではマーケティング部が主体となって企画を考え、他部署に調整をかけていくスタイルでした。そのため、企業からはサッカーというコンテンツに期待がある一方、組織が縦割りとなっており新たな価値づくりをする体制が整っておらず、うまく機能していませんでした。そんなとき、佐宗さんのことを知り、デザイン思考に興味をもちました。BIOTOPEのメソッドが、縦割りになりがちな意識に刺激を与える方法として有効だと思ったんです。その後、佐宗さん、小林さんのプレゼンを聞いて、部門横断・共創型ワークショップ「JYD未来デザインラボ」を立ち上げることにしました。
職員の想いやビジョンを見える化し、解放する
JFAには、協会の理念やビジョン、あるいはバリューに共感してここで働きたいと思って入いる職員が多く、組織へのロイヤリティは相対的に高いと思います。一方で、自分たちの想いが強過ぎて、少し柔軟性に欠ける部分がありました。しかし「JYD未来デザインラボ」では、小林さんのファシリテーションのもと、「社会課題解決×サッカー」の切り口で複数の機会領域を見出し、それを事業モデルとして具体化していくことで、みんなの想いが分散せずに「JYDが社会に対してつくり出せる未来像」を共創することができました。私は、何か付加価値を見つけようとしたときに、組織の仕組みや文化以上に個人が全力で取り組むエネルギーや推進力が勝ると思っています。その点でも、今回は想いのある職員を巻き込んでいく場として、とてもうまく機能したと思います。部署も役職も取り払って、ひとりのスポーツ好き、サッカー好きとして課題意識を感じて、何とかしたいと思っている人が想像以上に多かったのには驚きました。
組織を活性化し、潜在的なポテンシャルを引き出す
「JYD未来デザインラボ」で見出したのは、テーマは違えども、社会課題に対する貢献としてJFAのリソースを使うことにより、本来の目的であるサッカーの普及・育成が推進されるという新しいモデルの可能性でした。部門横断・共創型ワークショップは全3回。その後、出てきたアイデアをBIOTOPEさんと共にコアチームで分析・統合し、外部の意見も参考にしながら、今後のアクションプランについて話し合ったのですが、このワークショップを行ったことで、JYDに関わりたいと考える人が増えるなど、個人の意識だけではなく、組織としての変化が感じられたのは収穫でした。一方、そこで出たアイデアをどのようにして次の成長戦略につなげていくかはまだ見えていません。
アイデアを継続的に深掘りしてさらに価値あるものに
「JYD未来デザインラボ」で議論された、現状のターゲットである競技者への支援拡大や、これまでサッカーをしてこなかったシニアなどのライトユーザーに対する取り組み、またそれらの支援を行うにあたり、従来のJYDとは異なるスポンサーシップの獲得ができるのではないか、といった考えは、今後も継続的に深掘りしていくことで、より価値のあるものに進化させていけると感じています。BIOTOPEさんには「JYDが社会に対してつくり出せる未来像」を絵にしてもらいました。この構想自体にはみんなが賛成できており、あとは、どこまで肚をくくれるか。実現化するとなると予算を付けたり、体制も組んだりしなければなりません。でも、通常業務も大切なのでジレンマはあります。
内部の力だけでなく、外部の力を借りることも大切
一方では、協会の現場の声や社会課題解決のアプローチに興味を示している企業も出始めています。例えば、最近、学校の部活動の問題が叫ばれています。教員の負担が増え、そのしわ寄せが生徒にいっているという問題です。こうした課題を解決する仕組みやソリューションを、JYDが外部のリソースを活用することで提供できるのではないか。この問題に対して、サッカー界が率先してソリューションを提示できれば、他のスポーツへの展開も可能です。部活動のサポートを企業と一緒にしていく場合、企業にとっては中高生に対して、従来のコマーシャル活動とは違ったかたちでアプローチできる点に価値がありそうな気がします。